この記事では株式会社の役員出向の基礎知識や、役員出向時の登記申請までの必要な手続きを徹底解説しています。役員出向には税務(特に法人税法)など多岐に渡る知識が必要ですが、事前に理解しておくことで、いざというときに必要な手続きを迷うことなく進めることができます。注意事項なども記載していますので、これから自社の従業員が役員として他の法人に出向する場合などはぜひ参考にして頂ければと思います。
また、役員出向の説明にあたり、役員新任(就任)役員退任(任期満了)にも簡単に触れていますのでお読みいただければと思います。
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役員出向とは?
まずは役員出向の前に「出向」とは何かをご説明します。出向とは労働者(従業員)が元の雇用先(出向元)に籍を残したまま、子会社や関連企業などの他の法人(出向先)の指揮命令の下で業務に従事することをいいます。「出向元では労働者(従業員)」であるということがポイントとなります。
次に「役員出向」の説明をします。役員出向とは上記の出向のうち、出向先で役員に就任する場合のことです。分かりやすく言うと、出向元では労働者で出向先では役員に就任することになります。(そのような役員を「出向役員」と呼ぶこともあります)
役員出向ではない通常の出向の場合は、出向元、出向先共に雇用契約を結ぶこととなりますが、役員出向の場合は、株式会社と役員は会社法330条により「委任関係」とされていますので、出向元とは雇用契約、出向先とは委任契約となります。
役員選任者の就任承諾ならびに役員の義務および責任の確認が必要
取締役は、法令・定款・株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実に責務を果たす義務を負っています。これを「忠実義務」といいます。
その他にも取締役は競業避止義務や、損害賠償責任などの重い責任を負う必要がありますので、役員就任の承諾ならびに役員の義務および責任の確認が重要となります。
出向元で役員に就任している場合は出向できない
ここで一つ注意しなければならないのが、出向元で役員に就任している者は他の法人に出向することができないと言うことです。先述の通り、出向とは「雇用契約を結んでいる労働者が元の雇用先(出向元)に籍を残したまま他の法人(出向先)で業務に従事すること」をいいますので、出向元で役員ということは委任契約となり雇用契約は結んでおりませんので、出向元で役員に就任している場合は出向することができません。
役員が他の法人の役員になる場合は「兼務」「兼任」となる
役員が他の法人の役員に就任する場合は役員出向ではなく「兼務」「兼任」となります。会社法には、複数の会社の役員の兼務を禁止する規定はありませんので役員の兼務は可能ですが、以下のような問題が起こるケースがあります。
先述のとおり取締役は忠実義務を負いますので、兼務している2社が同じ事業を営んでいる競合で、片方の業務に比重をおき片方を放置している場合などは問題になります。
また、片方(A社)の取引行為を取締役として行う場合、その取引がもう片方(B社)の会社と同じ部類に俗する場合は、B社の取締役会の承認を得る必要があるとされています。
このように役員の兼務は様々な問題が発生する可能性がありますので注意が必要です。
出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与(報酬)の取扱いについて
出向元で労働者(従業員)として雇用契約を結んでいる者が他の法人に出向した場合において、その出向者に対する給与は出向元の法人が支給することとなっているため、出向先の法人がその出向者の給与に相当する金額(給与負担金)を出向元の法人に支出したときは、その出向者に対する「給与」として扱われます。
この給与負担金の取り扱いは、出向者が出向先の法人で使用人(従業員)となっているか、役員となっているかにより異なります。
出向先の法人で使用人(従業員)となっている場合の給与負担金の取り扱い
出向者が出向先の法人で使用人(従業員)となっている場合、給与負担金の額は、原則として出向先の法人における使用人(従業員)に対する給与として、損金の額に算入することができます。
出向先の法人で役員となっている場合の給与負担金の取り扱い
法人税法では役員給与について法人税法34条1項各号に定めた、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与のいずれかに該当しない場合は、損益算入を認めずに原則損不算入となります。
なぜこのような措置が取られているかと言うと、役員報酬は自由に変えてしまうことができますので、法人税の負担を不当に免れることができてしまいます。このようなことを防ぐ為に役員給与は原則として損金不算入となります。
法人税法第34条「役員給与の損金不算入」の適用について
次のいずれにも該当するときは、出向先の法人が支出する当該役員に係る給与負担金の支出を出向先の法人における当該役員に対する給与の支給として、法人税法第34条「役員給与の損金不算入」の規定が適用され、損金算入の可否の判断が認められます。
- 当該役員に係る給与負担金の額について、当該役員に対する給与として出向先の法人の株主総会、社員総会又はこれらに準ずるものの決議がされていること。
- 出向契約等において当該出向者に係る出向期間及び給与負担金の額が予め定められていること。
事前確定届出給与の規定の適用を受ける場合には、出向先の法人がその納税地の所轄税務署長にその出向契約等に基づき支出する給与負担金に係る定めの内容に関する届出を行うこととなります。
逆の言い方で説明すると、出向先の法人が支出する給与負担金は役員賞与に該当しますので、定期同額給与や事前確定届出給与等に該当する役員給与として損金に算入するためには上記1,2,の手続きが必要となります。
出向先で役員に就任する場合の役員変更登記について
出向先で役員に就任する場合には役員新任(就任)登記が必要になります。出向元でこれまでに役員に就任していて、任期満了にともない役員を退任をしたのちに出向先で役員に就任する場合は、出向元での役員退任登記、出向先での役員新任(就任)登記が必要となります。
出向元での任期満了による退任登記の必要書類
- 変更登記申請書
- 定款
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 委任状(代理人に依頼する場合)
出向先での役員新任(就任)登記の必要書類
取締役会非設置会社の場合
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 委任状(代理人に依頼する場合)
取締役会設置会社の場合
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 本人確認証明書(住民票の写し、免許証やマイナンバーカードのコピー)
- 委任状(代理人に依頼する場合)
役員退任と役員新任については以下の記事で徹底解説していますのでご確認下さい。
関連記事:株式会社の役員退任ガイド~役員退任の基礎知識から役員退任登記までの必要手続きを徹底解説します
関連記事:株式会社の役員就任(新任)登記申請ガイド〜役員変更の種類から申請方法、必要書類、費用までを完全解説します
役員の任期と管理方法
役員の任期は以下の通りです。
役員の任期
- 取締役 原則として2年
- 会計参与 原則として2年
- 監査役 原則として4年
任期は原則として、選任後上記の期間以内に終了する最終事業年度に関する定時株主総会の終結の時までとなります。
ただし、非公開会社の場合10年まで任期を伸長することができます。
役員任期の管理方法
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・本店移転(管轄内移転・管轄外移転)
・役員変更(新任、辞任、重任、退任)
・役員の住所変更
・募集株式の発行
・商号変更
・目的変更
・株式分割
・剰余金等の資本組入れ
・ストックオプション
ステップに沿って入力するだけで必要書類の作成ができます
登記書類を作成する為には、現在の登記情報を確認し正確に入力する必要があります。
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GVA 法人登記で作成できる変更登記書類(役員就任の場合)
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- 取締役会議事録
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今回は株式会社の役員出向に関するお話でした。やはり一番難しいところは役員給与の取り扱いについてです。役員給与を損金に算入するかしないかにより法人税額が変わりますので、内容を十分に把握し各手続きを行って下さい。最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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