会社の経営者である取締役が、病気や年齢など様々な理由から、任期途中で辞任をするケースはよく見られます。(ちなみに任期の途中で自ら辞めることを「辞任」というのに対し、任期満了を機会に辞めることを「退任」といいます。)
しかし、取締役の変動は登記事項(会社法(以下「法」)第915条、第911条第3項第13号)であり、取締役は最低でも1名は必要なことから、辞任する場合には後任者の選任が必要となるケースがあります。
そこで、今回は辞任した取締役の後任者が必要な場合に、新たな取締役が選任される場合における手続きについて解説します。
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取締役の後任がいる場合と後任がいない場合で手続きがどう変わる?
取締役の後任がいる場合といない場合はそれぞれ手続きの流れが異なります。
冒頭でお伝えした通り、会社法上、取締役は最低1名以上設置することが必要なため、必ず後任が必要な場合もございます。
それぞれ後任がいる場合といない場合の手続きの流れをを解説します。
取締役の後任なし
手続きはシンプルです。
辞任対象の取締役の辞任届を提出し、管轄の法務局に対して役員変更登記の手続きを行います。
取締役の後任あり
後任なしに比べいくつかプロセスが発生します。
辞任対象の取締役の辞任届を提出し、株主総会や取締役会で辞任する取締役の後任者を選定します。
その後、辞任した取締役の氏名と新しい取締役の氏名を記載した登記申請書などの必要書類を管轄の法務局に提出します。
下記で後任がいる場合の手続きの詳細を解説していきます。
取締役が辞任する場合と後任者を選任するための株主総会手続きと登記
1.1取締役の辞任に必要な手続きとは
取締役の選任および解任については、取締役会・取締役会非設置会社のいずれも株主総会決議により行われます(法第329条第1項、第339条第1項)。これに対して、取締役自身の意思で行う辞任の場合には、株主総会決議は必要ありません。
そのため、会社に対し辞任の意思表示をすることで、取締役の辞任は可能です。
1.2辞任届の作成
取締役の辞任についても登記が必要ですが、この辞任登記の際に添付書類として辞任届が必要になります。
辞任届の記載方法や記載内容、作成に当たっての注意点については以下の記事で詳しく説明しています。(取締役でも同じ書式でご利用いただけます)
関連記事:代表取締役の辞任届の書き方・ひな形を紹介
1.3後任者の選任の手続きと株主総会議事録の作成
辞任により定款で定める取締役の員数を下回ることになった場合や、取締役を欠くことになってしまう場合には、辞任登記が受け付けられないため、後任者を選任する必要があります。
取締役の後任者の選任に当たっては、株主総会の決議を経る必要があります。
株主総会については株主総会議事録の作成をする必要があり(第318条第1項)、この株主総会議事録は、取締役の後任者を選任したことを証する書面として、登記手続きで添付書類として必要になります。
1.4登記手続き
前述のとおり取締役の氏名は会社の登記事項(法第911条第3項第13号)のため、取締役の辞任と後任者の就任はいずれも役員変更の登記をする必要があります。
後任者が就任を承諾した後は、辞任登記と後任者の就任登記を行います。辞任登記と就任登記は同時に行うことが可能なため、登録免許税の節約の観点から同時に行うことが望ましいでしょう。
取締役が辞任したら取締役会が必要か
取締役の辞任によって取締役会が必要かどうかは、法人の組織形態や組織規則によって異なります。
一般的に取締役会は、新たな役員の任命や組織の運営に関する重要な決定の場として開かれますが、役員の辞任は必ずしも取締役会が開催される必要はありません。
登記手続きについて
ここからは、役員辞任の登記と後任者の就任登記を同時に行う場合の登記手続きについて解説します。なお、登記を同時に行う場合には辞任の日から2週間以内に辞任と就任の登記を行う必要がある点には注意が必要です(法第915条第1項)。
前述したとおり、後任の取締役を選任するためには株主総会を開催し決議する必要があります。そのため、登記手続きまでスムーズに進められるようにあらかじめ添付書類などは把握しておきましょう。
役員変更の登記手続きに必要な添付書類
辞任と後任者の就任登記を行う場合の添付書類は、以下の通りです。
①登記申請書
②辞任届
③(臨時)株主総会議事録
④株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)
⑤就任承諾書
⑥印鑑証明書
⑦本人確認証明書
以下に、「登記申請書」「辞任届」「株主総会議事録」「株主リスト」を作成する場合の注意点とテンプレートを紹介していますので、参考にしてみてください。
役員変更の登記申請書を作成する場合の注意点とテンプレートのご紹介
登記申請書のフォーマットは法務省のHPに掲載されているため、基本的にはその記載例に従って記載していきます。
Taro-1-10記載例(辞任等により新たな役員が就任した場合) (moj.go.jp)
記載に当たっては、以下の点について注意しながら記載をしましょう。
・登録免許税の金額
資本金の額によって異なります。1億円を越える場合には3万円、それ以下の場合には1万円となります。収入印紙の貼付又は領収証書で納付を行います。収入印紙には割印をしないで貼る必要があります。契約書などで収入印紙に割印をするものと覚えている人は注意しましょう。
・押印
登記申請書への押印は代表取締役名で登記所に届け出た印鑑を押印する必要があります。
取締役の辞任届を作成する場合の注意点とテンプレートのご紹介
辞任届についても前述の法務省のHPにフォーマットが掲載されています。必ずしもそのフォーマットを利用する必要はありませんが、以下の点は押えておきましょう。
・取締役の地位を辞任することを明確に記載する。
・宛先は会社にする。
・押印は登記所に印鑑を届け出ている場合にはその印鑑を押印する。
その他の辞任届の注意点や詳しい作成については以下の記事をご参考ください。
関連記事:取締役・監査役の役員辞任登記申請ガイド〜辞任届など必要書類や手続きをまとめて解説
役員変更の株主総会議事録を作成する場合の注意点とテンプレート
株主総会議事録は前述のとおり会社法で作成を義務づけられた文書のため、記載内容には細かい点も含めて注意が必要です。
・決議要件を満たしていることが明確となるように記載
取締役の選任は株主総会の決議事項です。株主総会の決議事項はそれぞれ決議要件が定められており、適法に決議を行うためには定足数を満たしていることが必要になります。
そのため、これらの点が明確となるように以下の点を記載します。
1)株主の総数
2)発行済株式総数
3)議決権を行使することができる株主の数
4)議決権を行使することができる株主の議決権の数
5)出席株主数
6)出席株主の議決権の数
7)出席株主の議決権の過半数が賛成したこと
以上の点を記載する必要があります。また、議案が可決された場合にも株主総会では選任はされますが、就任登記をするためには、選任された候補者が取締役へ就任を承諾することが必要となります。
株主リストを作成する場合の注意点とテンプレートのご紹介
株主リストについては以下のフォーマットを参考に作成しましょう。
作成に際しては以下の点について注意しましょう。
・株主総会、種類株主総会、総株主の同意、種類株主全員の同意のいずれかを明記する。特に種類株主の場合にはいずれの種類株なのかを明記する点があるので注意が必要です。
・株主総会の年月日を記載する。
・対象となる議案または全議案のいずれかを明記する。
・株主の氏名を議決権に対する割合の多い順に記載する。(議決権の合計が三分の二に達するか、上位10名になるまで)
上記以外に必要な書類について
就任承諾書
就任承諾書についてもフォーマットにしたがって作成するのが良いでしょう。
以下の記事で詳しく説明しています。
関連記事:取締役、代表取締役および監査役の就任承諾書の書き方・テンプレートを紹介
印鑑証明書
取締役会非設置会社の場合には、市町村が作成した印鑑証明書の添付が必要になります。取締役会設置会社の場合には、新たに就任する取締役が代表取締役である場合には同様に市町村が作成した印鑑証明書が必要となります。印鑑証明書の取得方法は以下の記事で詳しく説明しています。
関連記事:法人の印鑑証明書の取得方法やオンライン申請方法を解説
本人確認証明書
就任する取締役が、市町村長が作成した印鑑証明書を添付しないときは、本人確認証明書を添付する必要があります。本人確認証明書として使えるものは、以下のとおりです。
・住民票記載事項証明書(住民票の写し)
・戸籍の附票
・住基カード(住所が記載されているもの)のコピー
・運転免許証の表裏のコピー
・マイナンバーカードの表面のコピー
なお、コピーを提出する場合は、本人が「原本と相違がない。」と記載して、記名する必要がある点に注意が必要です。
計画立てて登記手続きを進めていきましょう
就任登記は辞任登記と同時に行う場合には、株主総会の開催なども含めると非常にタイトなスケジュールで進める必要があります。本記事を参考に必要書類や手続きをあらかじめおさえておきスムーズに登記手続きを進めておくとよいでしょう。
なお、取締役の辞任と似た用語に「退任」があります。辞任でなく退任の手続きを知りたい場合は以下の記事も参考にしてください。
関連記事:取締役の辞任・退任登記における辞任届など必要書類と手続き
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