役員辞任は急に発生することも多く、定期的に発生する役員退任・役員就任手続きとは異なり、いざ発生すると手続き方法がわからず慌ててしまうでしょう。
ですが、役員辞任の場合も役員就任、退任、重任と同じように、変更が生じた日から2週間以内の法務局への変更登記申請が必要なので注意が必要です。
本記事では、これから役員辞任登記手続きが必要な方向けに、辞任届なのどの必要書類や手続きの詳細、かかる費用や時間を解説します。
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株式会社における役員(取締役・監査役)の辞任手続きとは?
役員の辞任とは、その役員が自らの意思でその会社の役員の立場から退き、辞めることを指します。
役員就任、役員退任などは予め順序を踏んで進めていきますが、役員辞任は退職などにより、突如発生する可能性があります。
株式会社における役員は、取締役、監査役、会計参与があり、どれも「役員の辞任」に該当しますが、発生することが最も多いのは取締役辞任です。取締役はそもそも人数が多いのと、会社の業績やトラブルによる責任問題に直接関係することが多く、責任を取る必要がある機会が多いという事情もあります。
当該取締役からの辞任の意思表示が会社に伝わった時点で効力が発生します。
取締役の任期は原則2年となっており、任期が満了とともに退任となります。つまり、放っておけば近い将来退任するのを、任期中に辞任するということは何らかの理由があるということが考えられます。
会社によっては、取締役というと部長の次の役職、というイメージもありますが法律上は会社に雇用されるのでなく委任関係となり立場が大きく異なります。委任関係においては当事者はいつでも関係を解除することができるので、慰留などはあるかもしれませんが、法律上は代表者や株主の承諾は必要ありません。
取締役に就任するときは会社に「就任承諾書」を提出するのに対し、辞任するときは「辞任届」を会社に提出します。
役員(取締役・監査役)が辞任する理由、背景
任期満了を待たずに役員が辞任する背景、理由にはさまざまなものがあります。逆に言うと理由もなく辞任することはほぼないといえるでしょう。
代表的な辞任の理由や背景を紹介します。
任務懈怠や業績不振の責任をとるため
取締役として取るべき行動や果たすべき責任が果たせなかったことによる辞任です。
ただし、多くの役員は任期の間に結果を出すことを求められるので、任期満了まで全うすることがほとんどです。任期途中というのはよっぽどの理由があるのかもしれません。
会社の注力事業や方針が変わり、役員構成を見直すことになった
新規事業の開始や注力事業の変更により、その分野に通じた役員中心の構成に変更するようなケースです。非中核事業の担当役員にはいったん降りてもらうということになります。この場合、役員本人の責任というより経営方針によるものなので、残り任期によっては辞任でなく任期満了で退任となる場合もあるでしょう。
M&Aなどにより経営体制が変わった
会社の合併、買収により経営体制が大きく変わるケースです。会社の役員定数はあらかじめ決まっており、合併にともない全員が役員に残れない場合もあります。新経営陣の役員構成に入れなかった場合は辞任となることもあります。
他の会社の役員(取締役)就任にあたって、事業が競合してしまう
役員を務めている会社から新たな事業領域が生まれた際に、すでに自分が同じ領域の事業に関わっていると競合してしまうことから役員を辞任せざるを得なくなる可能性があります。逆に、もともと役員であった自社の事業が競合することが増えたため、他社の役員ができなくなるケースもあります。
例えば、グーグルCEOのエリック・シュミット氏はアップル社の取締役を務めていましたが、スマートフォン領域で競合することが増えたため取締役を辞任するということがありました。
健康上の理由で取締役・監査役としての役割が果たせない可能性がある
高齢の役員の場合に多い理由です。オーナー企業などでは80歳を超えて役員を務めているケースも少なくありませんが、いつかは健康上の理由で役員の役割が果たせなくなるときがきます。任期満了までも待てない急激な体調悪化の場合、辞任となる場合があります。
取締役・監査役の過失により会社に損害を与えた。本来は解任に相当するが、本人は責任を痛感しており、将来や外部への影響を鑑み辞任として扱った
解任したことは登記により公示され、外部への影響が大きい場合もあり、過失の度合いや株主の状況によっては、辞任として扱う場合があります。
役員(取締役・監査役)の辞任届のひな形・書き方
役員の辞任は会社に辞任届を提出することで、法律上はいつでも辞任ができます。役員就任や重任、解任は株主総会の決議が必要ですが、辞任の場合は決議は原則不要です。
特に決まった書式はありませんので、wordなどで以下のような辞任届を作成します。
辞任届とは?
辞任届とは、役員(取締役、監査役など)が任期中にその役職を自ら辞める場合に、会社に提出する書類です。辞任届は登記の際に提出が必要となる場合があります。辞任届には、いつ付で辞任するのか、役員の氏名、会社の商号(社名)などが記載されています。
退任届
役員(取締役、監査役など)が任期中にその役職を自ら辞める場合には、辞任届が必要ですが、役員を任期満了で退任する場合は、退任する旨を記載した退任届を作成する必要ありません。
もし、退任届を作成する場合は、以下の文例を参考にしてください。
文例)
このたび、一身上の都合により、貴法人の理事(監事・評議員)を
年 月 日付けで退任したくお届けいたします。
住所
氏名 印
会社名と辞任届を提出する代表者名、日付と本人氏名と住所を記載し、押印して提出するのが一般的です。辞任理由を明確に記載する必要はありません。
辞任届への押印は実印である必要はなく、認印でも可能です。
辞任届に記載する事項・書き方
辞任届に記載すべき事項としては、以下の事項が含まれるようにする必要があります。
- 辞任する年月日
- 辞任する代表取締役の氏名・住所・押印
- 辞任する会社の商号
- 辞任届の作成年月日
- 辞任の対象となる役職
また、代表取締役としての辞任には代表取締役の地位のみの辞任と取締役としての地位とあわせて辞任する場合の2つが考えられるため、どちらの場合に該当するのかを明確に記載する必要があります。
代表取締役の辞任届の押印に関する注意点
代表取締役の辞任届における印鑑の押印の場合、注意点が2つあります。
- 登記所に印鑑を届け出ている代表取締役が辞任するときは、登記所届出印又は市町村に登録している印鑑による押印。
- 登記所に印鑑を提出している代表取締役がいない場合には、代表取締役が辞任するときは、市町村に登録している印鑑による押印。
この2つのいずれかに該当しない場合には押印する印鑑については特に制限はありません。
役員(取締役・監査役)辞任では役員の定数にも注意
役員(取締役)はいつでも辞任ができますが、辞任後の役員構成にも注意が必要です。会社の定款には取締役の定数が定められていることが多く、辞任によって欠員が出る場合、後任の取締役を決める必要があるからです。
もし定数以上の取締役がいるなら問題ありませんが、欠員が出てしまうことがわかる場合は、事前に会社に相談するなど後任の人選も合わせて検討する必要があります。
欠員が出た場合の権利義務取締役・監査役とは?
役員定数に欠員が出てしまう場合、その直前に取締役だった人は定数が欠けている間は取締役としての権利を持ち義務を負わなければならないことが法律で定められています。
つまり、本人は役員でなくなったつもりなのに自分の代わりが決まるまでは続けなくてはならないということです。
このような理由により取締役である状態を「権利義務取締役」といい、辞任の場合も対象になります。突然会社の経営陣がいなくなることで会社が機能しなくなってしまうことを防ぐために法律で定められた地位なのです。
以上の点から、現実的には取締役の辞任は本人の一存で行われるというよりは周囲への共有や準備も必要な手続きともいえます。
役員(取締役・監査役)が辞任したら変更登記の手続きが必要
役員から辞任届を受け取ったら辞任の登記申請が必要になります。
後任を決めたり、辞任に伴う引き継ぎなどで慌ただしくなりますが、登記申請は辞任後2週間以内に行う必要があるので失念してしまわないよう注意しましょう。
辞任に関しても、他の役員変更と同じように決議や辞任届を受理しただけでは対外的に効力発生を主張できない場合があります。登記申請することで登記簿に反映され、社外からでも役員変更したことを確認できるようになります。
登記申請は、役員就任(新任)だけでなく、重任(再任)や退任、辞任など、役員変更であれば必ず必要なので忘れずに手続きしましょう。
役員(取締役・監査役)辞任登記の必要書類
役員(取締役)辞任の登記申請では、登記申請書を含め以下の添付書類が必要です。
※なお、登記申請書様式(フォーマット)は法務局のWebサイトからダウンロードできます。
役員(取締役・監査役)辞任の登記申請に必要な書類
辞任のみの場合は上記書類のみですが、後任の役員の就任の就任(新任)登記を同時に行う場合、以下の書類が必要になります。
後任の役員(取締役・監査役)就任の登記申請に必要な書類
取締役会非設置会社の場合
- 登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 委任状(代理人に依頼した場合)
取締役会設置会社の場合
- 登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 本人確認証明書
- 委任状(代理人に依頼した場合)
上記書類が準備できたら登録免許税納付のための収入印紙を貼付して書類の準備は完了です。
※登録免許税の金額はこの記事内で後述します。
役員(取締役・監査役)辞任の登記申請書の記入例
では、役員辞任と後任の役員就任の登記申請書の記入例を見てみましょう。(申請書様式は法務局Webサイトからダウンロードできます)
記載される項目は、会社法人等番号、商号(社名)、本店(会社住所)にはじまり、役員に関する事項(役員の種類や就任日)、登録免許税額や添付書類が並びます。
この書類に押印および、登録免許税分の収入印紙を貼付し、添付書類と合わせて法務局に提出することで登記申請が完了します。
出典:商業・法人登記の申請書様式(法務局Webサイト)
役員(取締役・監査役)辞任登記の申請期限は2週間
役員の辞任後、管轄の法務局に2週間以内に登記申請します。
辞任した日の翌日を起算日として2週間以内に登記申請が必要です。辞任以外でも役員変更であれば、新任、退任、重任(再任)、解任など、原則はどれも同じ期間計算の方法になります。
※「起算日」は民法140条では「初日不算入」と定められています。期間を定める時は、変更が生じた日の翌日から計算するのが原則です。
なお、役員変更以外の登記申請も原則として変更後2週間以内の登記申請が必要です。登記申請の必要があるならできるだけ早く登記申請する、くらいの感覚で良いと思います。
役員(取締役・監査役)辞任の登記申請にかかる費用・料金
登記申請にかかる費用の内訳は3つに分かれています。
①登記申請書類、必要書類の準備:1万円〜数万円
※司法書士に依頼する場合、報酬の平均額は28,851円(出典:平成30年の日本司法書士連合会による報酬アンケート)
②役員変更登記申請に必要な登録免許税:1万円(資本金が1億円を超える会社の場合、3万円)
※役員変更の各種類(新任・退任・辞任・重任(再任))はどれも同じ金額です。複数の役員変更でも1回の登記申請であればかかる費用は1回分のみです。
③法務局に登記申請するためにかかる郵送費や交通費:数百円
たいていの方は低額なのでほぼ考慮しなくてもいいでしょう。
上記を合計すると総額で約2万円~約5万円程度の費用となります。
②の登録免許税はどんな方法を使っても必ずかかりますので、登記申請の費用を安くするなら①をどこまで節約できるかがポイントになります。
役員(取締役・監査役)辞任の登記申請費用を安くするなら書類作成がポイント
では、できるだけ安く役員変更の登記申請をするにはどうしたらいいのでしょうか?
そのポイントは、上記①の登記申請書・必要書類の準備をできるだけ安く済ませることです。
②と③は誰がどんな方法でやってもほぼ変わらないからです。
この登記申請書や必要書類の準備は、通常は司法書士に依頼しますが、報酬が数万円程度かかります。(司法書士への報酬の平均額は 28,851円、高額な報酬だと5万円程度です※)
※参考:日本司法書士会連合会 報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)より
その他の方法としては、自分で調べてテンプレートを参考に自力で作成する方法がありますが必要な知識が多くなる上、全くミスが許されないので現実的ではありません。
費用と手間や難易度のバランスを考えると、ネット上で必要な書類が自動作成できるサービスを利用するのがおすすめです。1万円前後で登記申請に必要な書類が全て用意でき、基本的には間違えることもありません。
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役員辞任の効力は、該当する役員の辞任の意思表示が会社に到達した時点で発生します。その為、急いで役員辞任登記手続きをしなければならない場合も多く、いざとなってバタバタしてしまうこともあります。そのようなときの備えとして、事前に役員変更手続きの方法は認識しておくと良いでしょう。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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