法人登記における抹消とはは、登記事項の無効を是正する手続きの一つです。
聞き慣れない言葉ということもあり「どのような場合に抹消が必要なのか」「抹消と閉鎖、更正などとの違いは何か」「具体的な申請方法を知りたい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、抹消が必要となるケースや具体的な申請手順を詳しく解説します。
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法人登記における抹消とは?
法人登記において「抹消」は、あまり馴染みがないかもしれません。ここでは、法人登記における抹消と必要になるケースについて解説します。
登記における抹消とは?
抹消とは、登記事項が存在しない場合や無効である場合に行われ、不動産登記では一般的に見られる手続きです。たとえば、住宅ローンを完済後に、不動産に設定されている抵当権を消去する場合や本登記を行ったあとに仮登記を消去する場合の手続きがこれにあたります。
法人登記における抹消とは
法人登記においても抹消の基本的な意味は同じですが、実際に発生するケースは不動産登記と比べるとかなり少なくなります。
法人登記で抹消が必要となる具体的な例としては、役員変更の登記の対象者間違いや、任期満了でないのに重任してしまった場合などが挙げられます。また、会社設立の不成立や、清算結了の登記を抹消して会社を復活させるケースなどです。
特に、清算結了の登記の抹消は、ほかの抹消に比べて発生する確率が高いケースです。たとえば、会社名義の資産や不動産が残っていたことが、後から判明した場合などに必要となります。これらの詳細や具体的な手続きについては、次章で詳しく解説します。
ここで注意が必要なのは、「抹消」と「閉鎖」という似た用語の違いです。抹消というと完全な消滅をイメージしがちですが、抹消は特定の登記事項を無効化する手続きを指します。一方、閉鎖は会社が解散・清算結了したあとに行われる手続きのことです。
法人登記において抹消の対象となるケース
法人登記の抹消は特定の状況でのみ行われる手続きです。ここでは、抹消の対象となるおもなケースと、その判断基準について解説していきます。
抹消の前に登記事項が無効かどうかの判断が必要
法人登記の抹消を行う前に、まず登記事項が無効であるかどうかの判断をしなければなりません。無効でない場合は、抹消の登記を申請することができないためです。抹消の登記を申請できる条件は商業登記法134条に明確に記載されています。
(抹消の申請)
第百三十四条登記が次の各号のいずれかに該当するときは、当事者は、その登記の抹消を申請することができる。
一 第二十四条第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由があること。
二 登記された事項につき無効の原因があること。ただし、訴えをもつてのみその無効を主張することができる場合を除く。
2 第百三十二条第二項の規定は、前項第二号の場合に準用する。
※引用:e-GOV法令検索「商業登記法」
134条第1項第1号は該当する可能性の低い理由が中心ですが、第2号では「訴えをもってのみ無効を主張することができる場合を除く」と規定されています。これは、明らかに無効である場合や訴訟を経ずに無効を確認できる場合には直接抹消の登記を申請できるが、訴訟によってのみ無効を主張できる場合は除外されること意味しています。つまり、「簡易な手続きで対応できる場合」と「適切な司法手続きが必要な場合」とで区分されています。
訴えをもってのみ無効を主張できる場合
会社法第828条では、訴えを持ってのみ無効を主張できるケースと期間を列挙しています。おもな内容は次のとおりです。
1. 会社の設立無効は、成立日から2年以内に訴えを提起する必要があります。
2. 株式発行、自己株式処分、新株予約権発行の無効は、効力発生日から6ヶ月以内(非公開会社は1年
以内)に訴えを提起する必要があります。
3. 資本金の額の減少、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付の無効は、それぞ
れの効力発生日から6ヶ月以内に訴えを提起する必要があります。
これらの期間を過ぎると、たとえ無効の原因があったとしても、訴えによって無効を主張することはできなくなります。詳しい条文については、下記を参考にしてください。
(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
第八百二十八条 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)
四 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内)
五 株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内
六 会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内
七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内
九 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内
十 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内
十一 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内
十二 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内
十三 株式会社の株式交付 株式交付の効力が生じた日から六箇月以内
※引用:e-GOV法令検索「会社法」
抹消の対象となる無効の事由
具体的な無効の事由としては、次のようなケースが考えられます。
これらのケースでは、抹消の登記申請時に無効原因証明として株主総会議事録などの関連書類を添付する必要があります。
清算結了の登記を抹消し復活させるケース
清算結了の登記の抹消は、ほかの抹消ケースに比べて発生する確率が比較的高いものです。このケースは次のような状況で発生します。
- 解散後、清算が終わり結了の登記をしたが、何らかの理由で清算結了が間違っていた場合
- 会社名義の資産や不動産が残っていたことが、後から判明した場合
この規定は、清算結了には全ての債務の弁済と残余財産の分配が完了していることを前提としています。したがって、清算結了後に残存財産が発見された場合、この要件を満たしていないことになり、清算結了の登記を抹消する法的根拠となります。
清算結了の登記を抹消すると、その会社の登記簿が復活し、解散登記をしたときの状態に戻ります。その後、新たに発覚した資産の清算などを行い、改めて清算結了の登記を行うことになります。
この抹消の登記申請では、無効原因証明として上申書および財産が残っていたことがわかる書面を添付する必要があります。
残存財産発見時の会社復活の必要性
清算結了後に残存財産が発見された場合、会社を復活させる必要があります。すべての財産を処分し債務を弁済して初めて、清算が完了したとみなされますが、残存財産があると、適切に清算完了していないことになります。
たとえば、清算結了後に会社名義の不動産が発見された場合、次のような問題が生じます。
- 不動産の所有権が宙に浮いた状態となり、適切な管理や処分ができません。
- 固定資産税などの税金の納税義務は継続して発生します。
このような問題を解消するためには、会社を復活させたあとに、残存財産を適切に処理し、再度、清算手続きを行わなければなりません。そのため、清算結了の登記の抹消は重要な手続きといえます。
法人登記の抹消に必要な手続き・書類
法人登記の抹消は複雑な手続きですが、適切な書類を準備することで円滑に進められます。ここでは、必要な手順と書類について詳しく解説します。
清算結了の登記の抹消の手順
残存財産の存在が明らかになったら、次のような手順で、清算結了の登記を抹消し、会社を復活させる必要があります。ただし、この手順は複雑で専門的な知識を要するため、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めします。ここでは、一般的な手順を紹介します。
1. 残存財産の確認:発見された残存財産の詳細を確認し、評価します。不動産の場合、登記簿謄本を
取得し、現状を調査します。
2. 株主総会の開催:清算結了の登記抹消に伴い必要に応じて清算人を選任します。
3. 必要書類の準備:登記申請書、上申書、株主総会議事録などを作成します。残存財産の証明書類を
用意します。必要書類については、次章でまとめます。
4. 登記申請:管轄の法務局に清算結了の登記抹消を申請します。必要な印紙を貼付し、手数料を納付
します。
5. 登記の抹消:法務局が申請を審査し、問題がなければ登記を抹消します。会社は清算中の状態に戻
ります。
6. 残存財産の処理:復活した会社名義で残存財産を適切に処理します。不動産の場合、売却や清算配
当などの手続きを行います。
7. 再度の清算手続き:残存財産の処理が完了したら、改めて清算手続きを行います。
8. 清算結了の再登記:すべての清算事務が完了したら、再度清算結了の登記を申請します。
残存財産が見つかった場合は、このような手順で法的に解決し、会社の清算を適切に完了させることができます。
清算結了の登記の抹消を例に解説
清算結了の登記の抹消手続きには、次の書類と費用が必要となります。
- 上申書:抹消が必要となった経緯や理由を説明する書類
- 株主総会議事録:新たに清算人を選任する場合、清算人の選任を証明する書類
- 決算報告書:会社に残存財産があることを示す証拠となる書類
- 無効原因証明書類:財産が残っていたことがわかる書面など、清算結了が無効であることを証明する書類
- 印鑑届書:会社の代表者や清算人が登記所に届け出る印鑑を示す書類
- 印鑑証明書:市町村に登録した印鑑の証明書で、通常、申請日前3ヶ月以内に発行されたもの
これらの書類のうち、登記申請書や上申書については、法務局Webサイト(静岡地方法務局)にて、次のようなテンプレートが配布されています。
<申請書 テンプレート>
<上申書 テンプレート>
※出典:静岡地方法務局「申請書・上申書」
専門家からのサポートも検討しましょう
法人登記における抹消、特に清算結了の登記の抹消は、残存財産の発見など、特定の状況下で必要となる重要な手続きです。この手続きは、会社を一時的に復活させ、残存財産を適切に処理し、再度清算を行うために不可欠です。
法務局のウェブサイトで提供されている申請書や上申書のテンプレートを活用することで、書類作成の負担を軽減できます。ただし、これらの書類の準備と申請手続きは複雑で、法的知識を要するため、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
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