資産管理会社はいくらから設立すべきものなのでしょうか。事業や投資で成功すると、個人資産とは切り離して「法人」を設立し、そのオーナーとなる方が多いです。富裕層を中心に支持されるその管理方法は資産管理会社と呼ばれ、遵法性に問題の無い税金対策として知れ渡っています。また現行の資産管理だけではなく、いずれ訪れる相続や事業承継においても多くのメリットがあることも知られています。本稿では資産管理会社の特徴を解説するとともに、設立の目安となる資産基準がどれくらいかを考えます。
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資産管理会社とは?
まずは資産管理会社の定義と、なぜ資産管理会社の設立が必要なのかを解説していきます。
資産管理会社は、不動産や株式などの資産を持つ個人が、資産の管理を目的として設立する会社のことをいいます。オーナーの資産を有利に運用、管理する目的のためだけに設立された会社なので、「プライベートカンパニー」と呼ばれることもあります。
そもそも資産を法人で資産を管理することと、個人で管理することは何が異なるのでしょうか。
資産管理会社設立のメリット:個人投資家
個人投資家にとっての悩みは、収入が高ければ高いほど重くなる税金(所得税・住民税)の負担です。特に所得税は累進課税制度が適用されるため、所得金額の5%〜45%、住民税を加えると最大55%もの負担になります。以下の表は、所得金額による課税額の基準です。
(累進課税の一覧表)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
申告・納付に関しては上記額に加え、復興特別所得税(原則として基準所得税額の2.1%)を加算します。
引用:国税庁 所得税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
資産管理会社などを活用し、「言われたままに所得税を支払うこと」は不利な点が多いものです。合法的な減税策を活用することが求められます。
資産管理会社のメリット:資産運用や副業を行っている社会人
また資産管理会社として法人で資産管理をする場合、経費面でのメリットがあります。
個人では経費に計上できなかったものが、法人になると計上できる範囲が広がり、より利益を残しやすくなります。
また法人のため、資産管理会社を支払い手として、役員報酬や従業員に対して報酬を支払うことが可能です。これらの人件費は法人にとって給与となるため、所得が個人に帰属され、すべて自分が所得を得て税金を納めるよりも全体の税額が少なくなります。よって手元にお金が残ります。
特に税金面のメリットがあるのが以下の方々です。
〇相続税の発生が見込まれる資産家
多額の資産を所有する資産家の方が無くなると、資産の受け手である配偶者や子世代に対して、相続税が課税されます。相続税も所得税と同じく累進課税を適用しており、最大税額は55%と非常に負担額の大きなものです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0円 |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
引用:国税庁 相続税 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
資産管理会社を活用することで、相続税と法人税の税負担を比較することになります。
資産管理会社を設立して所有権を相続する場合は、上記表のように画一的で対策が行いにくい個人相続に比べ、株価対策が比較的行いやすい側面があります。法人税も19%から23%で設定されているため、相続税に比べて税率が著しく低いものです。
また相続対策として不動産を生前贈与するとします。その場合も登記の手間や不動産所得税などの実行ハードルが高い個人情報に比べて、資産管理会社の株式贈与であれば登記は不要です。不動産取得税も発生せず、実行コストが下がるなどのメリットがあります。
〇オーナー社長
会社を創業してオーナー社長となった方は、自社の株式(自社株)も相続資産として計上されます。自社株を親族に生前贈与しても相続税の節税は可能ですが、会社の経営権などの問題が発生し、紛争や第三者への譲渡されるリスクがあります。
そこで資産管理会社を設立し、自社株を移しておけば、経営権を確保しながら自社株の相続対策が可能です。
資産管理会社を設立するメリット・デメリット
資産管理会社を設立することで得られるメリットと、懸念されるデメリットをまとめます。
資産管理会社のメリット
資産管理会社のメリットは、前項にて説明した相続税や所得税の節税効果です。特に相続時における節税効果は法律の未整備部分をついたようなものも多いですが、資産管理会社は生命保険の活用と並び、合法的に認められている方法です。
また個人で所得を得る場合と比較し、所得の分散効果があるといえます。節税面のほかにも、相続に置いて不可欠な評価面の優遇策などにより、相続や贈与がスムーズになります。
オーナーが資産管理会社の社員となることで、社会保険である厚生年金保険に加入することができます。厚生年金保険は労使折半であり、個人としての負担が抑えられます。また社会保険の保険料は「標準報酬月額」といい、被保険者の収入が高ければ保険料も高くなる仕組みが採用されています。
このように、資産管理会社を使うことで、個人の社会保険コストが抑えられることもメリットのひとつです。
資産管理会社のデメリット
対する資産管理会社のデメリットは、会社設立に多額の費用が必要となる点です。資産管理会社は法人であれば有効のため、株式会社で設立することも、合同会社で設立することもできます。
(株式会社と合同会社の違い)
| 合同会社 | 株式会社 |
設立費用 | 11万円程度 ※出資金の額に額に応じて変動 | 20万円程度 |
運営・維持コスト (官報掲載費・登録免許勢等) | 役員の任期:なし 決算公告:不要 官報掲載費・登録免許税:不要 | 役員の任期:通常2年、最長10年 決算公告:必要 官報掲載費・登録免許税:必要 |
意思決定の速度 | 所有者=経営者として意思決定可能 | 内容により株主総会を開催する必要 |
社会的信用度 | 普通 | 高い |
合同会社は比較的少額で設立できることと、運営コストが低いため、資産管理会社に適しています。また社会的信用度の観点ですが、資産管理会社は積極的に取引や社外への発信をすることはありません。社会的信用度を維持する必要が無いものといえるでしょう。
ただ、いずれの場合も費用がかかることは避けられず、税金を納める義務が発生したり、外注していたら源泉徴収や年末調整などの経理処理の負担が増えます。減税メリットと設置コストを天秤にかけ、資産管理会社を設置するか否かを判断するようにしましょう。
また資産管理会社が保有している資産は、個人が使用する目的では使用できないというデメリットもあります。
資産管理会社を設立するのは資産がいくらから
それでは資産管理会社は、どれくらいの資産を持っていれば設立すべきなのでしょうか。
一般的には、個人の収入が800万円から900万円を超えると、資産管理会社の設立メリットがあるといわれます。収入から各種必要経費を引いた「所得」が800万円から900万円を超えると、個人でかかる税率より法人にかかる税率が安くなるためです。
特に不動産事業を営んでいる場合は、800万円に達する前に資産管理会社の設立をお勧めします。通常の相続に対する不動産の評価方法などを活用したうえで、節税メリットを出すことができます。所有している資産のうち、節税メリットの高い不動産はどれくらいなのか、あまり節税メリットの無い現預金の資産はどれくらいなのかで判断しましょう。
また個人から法人に不動産を移転させると、登記の名義変更が必要となります。この名義変更には登録免許税が必要になり、都心部ほど高額になる可能性があります。不動産を購入する時点で、先に資産管理会社を設立しておけば、節約することができるでしょう。
このように資産管理会社は、目前で支払う税金だけではなく、「今ははっきりと見えていない将来のコスト」も含めて対処することが可能です。
「自分ごと」として資産管理会社の設立を検討しよう
資産管理会社は富裕層が対象という先入観もあり、実は設立メリットを有する年収層・所得層の方でも「気づいていない」ケースが散見されます。前項のように800万円から900万円ベースの収入があれば充分に対象になるものです。
対象の方は自身および家族のポートフォリオを見ながら、資産管理会社を作った場合のメリット、かつ設立したときに生じるデメリットを可視化し、意思決定するようにしましょう。今後、個人における財務・家計コンサルティングの必要性を感じる方も増えてくると考えられます。その時の具体策として、資産管理会社は更に注目されることでしょう。「自分ごと」として資産管理会社が効果的か、検討してみましょう。
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