新型コロナウイルスの影響や半導体不足など、現在では様々な要因から多くの企業は難しい経営状況を強いられています。売上が減少している中で、人件費や賃料などの固定費は必ず発生するため借り入れなどでこれを補っている会社も少なくありません。
こうした時期が長期化することで借入金などの債務が経営状態を圧迫している会社では、商品など新たなプロダクトやサービスを開発して収益力を向上させることで状況を打破したいと考える一方で、
そのための資金を調達することが難しいという状況に陥りがちです。こうした、債務超過に陥った会社などの財務内容の改善策にDES(デットエクイティスワップ)があります。
本記事では、デットエクイティスワップについて分かりやすく、どんな場面で有効なのかについて解説します。
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デットエクイティスワップとは?
デットエクイティスワップの概要
デットエクイティスワップ(Debt Equity Swap)とは、会社の債務(Debt)を株式(Equity)へ交換(Swap)することをいいます。債務超過に陥っている会社の場合、銀行からの融資を受けることが難しく、そうなると新たな事業により収益力を向上させるといった解決も困難であることが多いです。
そこで、負債の一部についてDESを実施します。DESを実施すると負債の一部は資本(純資産)へ振替えられることになり、債務超過の解消、自己資本比率の上昇等の財務体質が改善される効果があります。
このように新たな払い込みを経ることなく債務を株式に変化させることができるのがDES最大の特徴です。
現物出資
DESは会社法の視点から見ると新株発行です。新株発行の際は、会社に対して株式を引き受ける者は払い込みを行う必要がありますが、金銭以外の財産を出資することも認められています(会社法第199条第1項第3号)。このような出資方法を現物出資と呼んでいます。
DESの場合は、会社に対する金銭債権を金銭以外の財産として出資します。出資した金銭債権は会社が保有することとなり、債権者と債務者が同一になるため、混同により消滅します。
DESはどんな場面で役立つのか?
では、DESはどのような場面で役に立つのでしょうか。以下ではメリットやデメリットに触れながら解説します。
DESのメリット
DESのメリットはそれぞれの立場に応じて以下のメリットがあります。
・経営者
経営者にとって最大のメリットは負債が削減できるため、債務超過などの経営不振や財務状況を改善できるという点にあります。借入が減ると元本に加えて利息の支払い義務からも解放されます。また、財務状況が改善されるため、新たな借入を行うという選択肢も生まれます。
・株主
株主にとっては経営状態や財務状況が改善されるため、倒産リスクを低減させることができる結果、保有している株式が無価値となるというリスクを避けることができます。
・債権者
債権者にとっては、新たな貸付を行うことなく会社の再建が可能なので、再建が上手くいった際には取得した株式を売却・譲渡して債権額よりも多くの対価を得られる可能性が生まれます。その他にも、株主となるので経営への参画や配当を得られるというメリットもあります。
DESのデメリット
他方でDESには以下の様なデメリットもあります。
・経営者
株式を債権者に握られることになるため、持株の比率次第では債権者から経営への干渉が生じることが考えられます。典型的な例としては、債権者の息のかかった人間を取締役にするように株主総会の招集を求めることなどが考えられます。その他にも、利息の支払いは不要になる代わりに配当として支払う金額が増加する可能性があることもデメリットとして挙げられるでしょう。
・株主
株主にとっては新たな株主が増えるため、これまで自分が有していた持株比率が低下してしまうことや株式の価値が低下してしまうリスクなどが考えられます。
・債権者
DESを行った後にその会社が倒産や解散した場合、清算手続きにおいては株主となってしまうため、その他の債権者に劣後することになってしまいます。その結果、債権相当額の回収ができなくなってしまうリスクがあります。
以上のメリットやデメリットを踏まえると、DESは財務状況さえ改善できれば収益を得ることが可能となるような可能性のある会社が債務超過に陥っている場合に特に有効な方法といえるでしょう。
DESを行うための手続き
上述したとおり、DESは会社法の視点から見た場合には新株発行となります。新株発行はその会社の株式が譲渡制限株式を発行している会社か、どのような機関設計を採用しているかにより異なりますが、以下では非公開会社で取締役会設置会社であることを念頭に置いた説明をします。
1)株主総会を開催し、以下の事項を決議する(法199条第1項)
・募集株式の数
・募集株式の払込金額
・金銭以外の財産を出資する旨と当該財産の内容及び価額
・払込又は給付の期日又は期間
・増加する資本金及び資本準備金
なお、以上の事項については、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めた上で取締役会へ委任することも可能です(法200条第1項)。
2)裁判所に対し検査役選任の申し立てを行う(法207条第1項)
現物出資がされる場合、出資される財産の価額を調査させるために、裁判所に対して検査役の選任の申立てをしなければなりません。
ただし、募集株式の数や現物出資の財産の価額が一定以下である場合や、価額が明らかな場合は、検査役の調査は不要となります。
DESの場合は、会社に対する債権であって帳簿価額を超えない場合は、検査役による調査を省略することができ、実務上は検査役の調査が行われるケースはあまりありません(法207条第9項各号参照)。
3)募集株式の引受けの申し込みをしようとする者(DESの場合は債権者)に対し、以下の事項を通知する(法203条第1項)
・会社の商号
・1)で決議した募集事項
・発行可能株式総数や株式の内容その他法務省令で定める事項
4)募集株式の申し込みをする者(DESの場合は債権者)が以下の事項を記載して申し込みを行う(法203条第2項)
・募集株式の申し込みをする者(DESの場合は債権者)の氏名及び住所
・引き受けようとする募集株式の数
5)取締役会を開催し、募集株式を割当てる者及び割当てる募集株式の数を決議し、申込者に対して通知する(法204条)
6)引受人(DESの場合は債権者)から財産の給付が行われる
7)発行済株式の総数及び資本金の額について変更登記を行う(法第915条第1項、法911条第3項)
以上の手続きを踏む必要があります。発行済株式の総数及び資本金の額は登記事項なので、変更が合った場合は変更登記を行う必要があります。実務的には株主総会の開催と登記の要否はセットで意識しておくとよいでしょう。
まとめ
新型コロナなどの影響により、本来実力のある会社が借入などの増加により苦しんでいる場合の財務状況の改善策としてDESは非常に有効な方法といえるでしょう。本記事がDESを活用した経営危機の解決にお役に立てれば幸いです。
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