実質的支配者リストとは?制度の内容や利用場面について分りやすく解説

株式会社の基礎知識
投稿日:2024.08.06
実質的支配者リストとは?制度の内容や利用場面について分りやすく解説

2022年1月31日から実質的支配者リスト制度の運用が開始されました。


この制度は、株式会社の実質的支配者に関する情報を法務局が把握しておくことで、マネーロンダリングやテロ組織への資金援助など、法人の悪用を防ぐために必要に応じて金融機関へ情報提供を行うために創設されました。


しかし、どういった内容の制度なのか、またどのように利用されるのかなどが分からないという方が多いのではないでしょうか。そこで、本記事では実質的支配者リスト制度について分かりやすく解説します。


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実質的支配者リスト制度の概要

01.1実質的支配者リスト制度とは?

実質的支配者リスト制度は、株式会社が登記所の登記官に対し、その株式会社が作成した、実質的支配者に関する情報を記載した書面を添付書類とともに提出することで、その書類を保管と認証文付きの写しの交付を受けることができるようになる制度です。


根拠は、2021年9月17日に公布された「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」であり、同規則が2022年1月31日に施行されたため運用されることとなりました。


この制度の内容を一言で言い換えるなら、会社の実質的支配者について法務局が情報の保管を行ってくれて必要な時に保管された情報の写しに法務局の認証文をつけて発行してくれる制度といえます。


この制度の背景には、FATF(金融活動作業部会)からマネーロンダリングやテロ資金供与の防止のために法人の実質的支配者を把握することの勧告などを受け、日本では会社設立の定款認証の際に公証人が会社の実質的支配者となる者の申告を求める取り組みが行われていることがあります。


しかし、この取り組みは設立時になされるものであるため設立後の株式会社の実質的支配者を把握する事が課題となっており、こうした課題に答えるために始まったのがこの実質的支配者リスト制度です。


01.2実質的支配者とは?

この制度の対象となる実質的支配者とは、次にいずれかに該当する者をいいます。


1)会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合を除く。)


2)1)に該当する者がいない場合は、会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合を除く。)


また、ここでいう自然人には国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場企業等及びその子会社などの「自然人とみなされる者」((犯罪による収益の移転防止に関する法(以下「法」)第4条第5項、同法施行令第14条、同法施行規則第11条第2項第1号、同条第4項)も含まれます。


そのため、例えば上場会社が子会社を有している場合には、議決権の過半数を有しているため、多くの場合はその子会社にとっての実質的支配者は、この上場会社が該当することになります。


また、上場会社の子会社が、A株式会社の議決権のある株式を60%保有しているときには、当該子会社はA株式会社から見て実質的支配者に該当することになります。


01.3実質的支配者リストを使用する場面とは?

では、制度を利用した実質的支配者リストとその写しを使用するのはどのような場面となるのでしょうか。


これについては、主に金融機関等が想定されています。銀行などの金融機関は、なりすましや偽りなどの疑いがもたれる取引について申告された実質的支配者と顧客等の関係を確認することが義務付けられているためです(法第4条第2項)。


そのため、実質的支配者リストについては、こうした金融機関への会社からの申告書類として用いることや実施的支配者を確認するための手段として利用されることが想定されています。


利用者にとってはこれまで金融機関ごとに異なるフォーマットや書式が要求されていたものが統一されるため、事務手続きの負担が軽減されるというメリットがあるものと期待されています。


実質的支配者リスト制度の利用のための手続

では、実質的支配者リスト制度を利用するための手続きはどのような内容となるのでしょうか。ここからは手続きの流れについて解説します。


02.1制度の対象となる者

この制度を利用する対象となるのは、株式会社および特例有限会社が対象となります。また、これに該当する者であっても前述の実質的支配者に該当する者がいない場合にはこの制度を利用することはできません。


02.2手続きの流れ

実質的支配者リストの制度を利用するための登記所での保管までの手続きの流れは以下のとおりです。


①実質的支配者リスト及び申出書の作成

②添付書面の準備

③申出会社の本店所在地を管轄する法務局に対する申出書及び添付書面の提出

④登記官による申出内容の確認

⑤実質的支配者リストの保管(登記所)


①の申出書については、様式が法務省のホームページで公開されており、必ずしも以下の画像の書式を用いる必要はありませんが、必要な記載事項を満たす必要があるため、特段の理由の無い限り以下のフォーマットを利用する方が無難です。




また、②の添付書類については、添付が必要な書面と添付も可能な書面の2つがあり、以下のものが添付書類となります。


【添付が必要な書面】

・申出会社の申出日における株主名簿の写し

・(実質的支配者リストの記載と株主名簿の写し等の内容が合致しない場合)その理由を記載した代表者作成の書面


株主名簿の写しについては、公証人が発行する「申告受理及び認証証明書」(設立後最初の事業年度中のみ)又は法人税確定申告書別表二の明細書の写しに代えることも認められます。


【添付することができる書面】

・実質的支配者である支配法人の申出日における株主名簿の写し

・(実質的支配者リストの記載と支配法人の株主名簿の写しの内容が合致しない場合)その理由を記載した代表者作成の書面

・実質的支配者の本人確認書面

例:運転免許証の表裏両面のコピー、住民票の写し等


以上に加え、以下の書面が必要となります。


・(代理人によって申し出をする場合)代理権を証する書面

・申出会社の代表者の本人確認書面


なお、代表者の本人確認書面については申出書又は委任状(代理権を証する書面)に代表者印が押印されている場合には添付が不要となります。


証明書を取得する際の手続き(写しの交付と再交付手続)

証明書は、先ほどの①〜⑤の手続きが完了した後に認証文付きの写しが交付されます。銀行などに提出する際にはこの写しを金融機関に提出することになります。


また、この写しは再交付を求めることも可能です。再交付の場合には、再交付申請書を作成し、以下の書面の添付をすることが原則として必要となります。


・(代理人によって申し出をする場合)代理権を証する書面

・申出会社の代表者の本人確認書面


ただし、本人確認書面については、再交付申請書または代理権を証する書面へ代表者印が押印されている場合および申出会社の本店所在地に郵送する方法で再交付を申請する場合には不要となります。


再交付申請書についても、法務省のホームページに以下のフォーマットが掲載されているので、これを利用するのが無難です。


まとめ

実質的支配者リスト制度は国際社会や金融機関の求めにより制度化されるに至りました。


会社の経営にあたって金融機関との取引は避けて通ることができない以上、会社の経営者としては実質支配者リスト制度について理解しておくことは必須といえます。


本記事を参考に自社に実質支配者に該当する者がいるかチェックし、該当する者がいる場合には、制度の利用を検討することをおすすめいたします。


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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム

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