会社の取締役などの役員は、会社に雇用されている社員とは法的な扱いが異なるということはご存知の方も多いと思います。社員との違いについてよく論点になることのひとつが「役員は雇用保険に加入できるのか?」です。
本記事では雇用保険についての基礎知識から、役員が被保険者になりえるケースなどについて解説します。
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本記事で紹介するような、役員の保険の取り扱いが論点になる機会として最も多いのは新しく役員に就任するタイミングでしょう。役員就任に限らず、役員の変更が生じるのは会社にとって大きな変化のタイミングであることも少なくなく、さまざまな手続きが必要になります。
役員変更の登記申請もその一つです。GVA 法人登記なら、役員変更に必要な情報を入力すれば最短7分で書類を作成し、自分で申請できます。
雇用保険とは
雇用保険とは労働者が失業した場合や、雇用の継続が困難になった時に備えるための制度です。
いわゆる失業手当や育児休業給付金が典型的な雇用保険の給付ですが、他にも求職活動を支援するための広域求職活動費といった求職活動支援費や、安定した再就職先に雇用された場合に支給される再就職手当など、その内容は多岐に渡ります。
また労働者の教育訓練や能力の開発向上、福祉の増進のためにも雇用保険は使われており、個人経営の農林水産業など一部の例外を除いて、原則として労働者を使用する全ての事業で加入することになっており、労働者の生活の安定のために欠くことのできない制度となっています。
雇用保険の被保険者と種類
一般被保険者
次から説明していく高年齢被保険者と短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者を除いた被保険者で、ほとんどの労働者はこちらに該当します。
高年齢被保険者
65歳以上の被保険者で、短期雇用特例被保険者と日雇労働被保険者を除いた被保険者です。一般被保険者は、65歳に達するとこちらに切り替わります。
短期雇用特例被保険者
季節的に雇用される被保険者で、冬のスキー場や夏の海の家などで雇用される労働者で一定の要件を満たした者が、こちらに該当します。
日雇労働被保険者
一定の要件を満たした日々雇用される労働者や、30日以内の期間を定めて雇用される労働者が該当します。
雇用保険の適用除外
次の要件に該当する場合は、雇用保険の適用を除外されます。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
- 同一の事業主に継続して31日以上雇用される見込みのない者
- 季節的に雇用される労働者で、4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者や、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者
- 休学中や定時制などを除いた学生(いわゆる昼間学生)
- 政令で定める漁船に乗り組む船員
- 国、都道府県、市町村に雇用される公務員
ここまで解説した通り、雇用保険は雇用労働者のための保険であって、取締役、監査役といった会社の役員などは原則被保険者となりません。個人事業主や合名会社、合資会社の代表社員なども同様です。
ですが、一定の要件を満たした場合は、例外的に被保険者となる場合があります。
次からは取締役などの役員が雇用保険の被保険者になる場合と、その要件について解説していきます。
役員が雇用保険の被保険者となる場合
会社の取締役であっても、同時に労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められる場合は被保険者となります。
取締役工場長や取締役部長、取締役支店長などがこの典型例で、このような場合、その役員は兼務役員として扱われます。
ただし、このような肩書があれば、必ず兼務役員となるわけではなく、実態として労働者的性格の強い者、つまり労働者性がなければ被保険者とはなりません。
役員が雇用保険の被保険者となるために、重要なキーワードが労働者性です。
では、労働者性とはどのようなものを指すのでしょうか。
労働者性とは
労働基準法上の保護を受ける労働者とは、会社との間で労働者が会社の指揮命令に従い、労務を提供することと、会社がこれに対して賃金を支払うことを約した労働契約を結んでいる者を言います。
一方で取締役などの役員は、会社と委任契約の関係にあり、指揮命令を受けているわけではありません。
そのため、役員は労働者ではない。つまり労働者性がないと判断され、原則として雇用保険の被保険者とならない扱いになっています。
では、労働者性の概要を踏まえたうえで、具体的にどのような要件を満たせば、役員に労働者性が認められるのかを見ていきましょう。
労働者性が認められるための要件
業務執行権や代表権を持たないこと
どのような肩書であっても、業務執行権や代表権を持っている役員は、会社との間で指揮命令の関係に立たないことから、労働者とは扱われません。
支店長や支配人は、特定の営業所において一切の代理権を持っていることがありますが、それが即ち代表権を持っているとは言えず、単に支配人であることのみを持って、労働者ではないと判断できないことに注意を要します。
役員報酬より労働者としての賃金の方が高いこと
役員報酬が主たる収入となっている者は、労働者としての性格が弱いことになるため、この要件を満たす必要があります。
加えて労務と報酬との間に対償性、つまり労務と報酬に対応する関係が必要となります。労働した時間に応じて、賃金が支払われる場合や、欠勤控除されるような場合は、これが高いと判断されます。
また失業の際の失業手当は、役員報酬を含まない労働者としての賃金分から算出したものになります。
業務遂行の拘束性が認められること
労働者は会社の指揮命令を受けて、労務を提供しますが、役員は会社とは委任関係に立つため、自由な裁量権を持っています。
このため、役員が労働者性を認められ、雇用保険の被保険者となるためには、業務の進め方や出退勤の時間、勤務の場所などを管理され、労働者として拘束されていることが必要となります。
また本人でなければ行えず、代替性のない委任関係と異なり、労働者としての代替性があることも要件とされています。
他の労働者と同様に就業規則等の適用を受けること
就業規則は原則として労働者に適用されるもので、役員には適用されません。ただし兼務役員として労働者性が認められる場合は、労働者としての部分においては、他の労働者と同様に就業規則の適用を受けることになります。
役員が雇用保険の被保険者となる要件を見てきましたが、被保険者とならない具体例も参考としてあげておきます。
雇用保険の被保険者とならない役員等
代表権を持っている役員
代表権を持っている役員は、兼務役員とはなりません。
このため、必ず代表権を持っている代表取締役社長は、どのような場合でも兼務役員として、雇用保険の被保険者とならないことになります。代表社員や代表執行役、代表理事も同様です。
職制上の地位を有する役員
副社長や専務、常務などがこちらに該当し、CEOやCFOといった地位にある者も同様となります。
業務執行社員
合同会社や合名会社の業務執行社員は業務執行権を有しているため、兼務役員とはなりません。
委員会設置会社の取締役等
委員会設置会社の取締役や監査役等は社員との兼業が禁じられているため、兼務役員とはなりません。会計参与や監事も同様です。
まとめ
役員が兼務役員として雇用保険の被保険者となる場合と、その要件を見てきました。兼務役員と認められる要件は複雑で、また役員の労働実態ごとに個別具体的に見ていく必要もあり、自分で判断することは難しくなっています。
兼務役員は給与の計算方法や、雇用保険の届出も通常の労働者や役員とは異なったものとなっているため、疑問に思うことがあれば、税理士や社会保険労務士といった専門家に相談することをお勧めします。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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