本記事では、増資において必要な定款変更について解説します。
「増資」とは、会社の資本金を増加させることをいい、会社が資金調達の一環として新たに株式を発行して自己資本を増加させることを指します。こうした増資に際しては、会社の定款変更が必要となる場合もあり、その場合に定款変更を怠れば、増資自体の効力が否定されてしまうケースも考えられます。
そこで、本記事では、まず、会社の「定款」がどのようなものであるかを説明した上で、次に、増資に際して必要となり得る定款変更の内容について解説します。
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定款変更とは?
定款とは、会社の憲法と呼ばれることもありますが、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。
定款とは?
定款とは、会社の組織・運営・管理について定めた基本的な規則のことをいい、その規則を記載した書面を指して「定款」ということもあります。定款は、会社の設立時に発起人が作成し、公証人の認証を受けることにより、その効力を生じます。会社の設立登記を申請する際には、こうして有効となった定款を法務局に提出する必要があります。
なお、定款は、必ずしも社外に公開する前提で作成されるものではありませんが、会社法上、会社の本店及び支店に備え置く必要があるとされており、株主や債権者等の閲覧に供される場合もあります。
定款に記載される項目
株式会社の定款に記載(又は記録)すべき事項には、大別して、①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項があります。
1.絶対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない事項であり、これを記載しない場合には、定款自体が無効になります。具体的には、(i)事業目的、(ii)商号、(iii)本店の所在地、(iv)設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、(v)発起人の氏名又は名称及び住所が、絶対的記載事項として会社法上定められています。また、これらに加えて、発行可能株式総数についても、会社の成立の時までに定款に定めを置くことが必要とされています。
2.相対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない事項ではないものの、定款で定めなければその事項の効力が認められないものを指します。
相対的記載事項は、これを定款に記載しなくても定款自体の効力が否定されるわけではない点で①の絶対的記載事項と異なり、定款に定めない限り効力が認められない点で、③の任意的記載事項とは異なります。
相対的記載事項に該当する項目は数多く存在しますが、例えば、株券発行に関する定めや種類株式に関する定めなどが含まれます。また、会社の設立に関するいわゆる変態設立事項も、相対的記載事項のひとつです。変態設立事項とは以下の4項目をいい、いずれも、発起人によって濫用約に利用され、株式会社の財産的基礎を危うくする危険が大きいことから、定款に定めなければ効力を生じないことするなど、一定の規制が設けられています。
株式会社の設立に際して、金銭以外の財産を出資することをいいます。現物出資が行われる場合には、定款に、出資者の氏名・名称、当該財産及びその価額、並びに、その者に対して割り当てる設立時発行株式の数を記載しなければ、その効力を生じないこととされています。
株式会社の設立中に、当該会社が成立後に第三者から財産を譲り受けることを、発起人が第三者との間で約束することをいいます。財産引受が行われる場合には、定款に、その旨、当該財産及びその価額、並びに、その譲渡人の氏名・名称を記載しなければ、その効力を生じないこととされています。
株式会社の成立により発起人が受ける報酬があるときは、定款に、当該報酬の内容(金額、支払時期等)及びその発起人の氏名・名称を記載しなければ、その効力を生じないこととされています。
(発起人等ではなく)株式会社が自らの設立に関する費用を負担する場合には、当該費用の額を定款に記載しなければ、その効力を生じないこととされています。ただし、定款認証費用や登録免許税など当然に会社負担とされているものについては定款に記載する必要はありません。
3.任意的記載事項
定款に記載せず他の方法で定めても有効であるにもかかわらず、会社の意思で定款に記載する事項のことです。
定款に記載しなくても定款自体が無効となるわけではない点で①の絶対的記載事項と異なり、また定款に記載せず株主総会決議あるいは取締役会規則等により定めても効力が生ずる点で②の相対的記載事項とも区別されます。
具体的には、役員の員数や報酬に関する規定などがこれに該当するものとされており、任意的記載事項であっても、いったん定款に定められた場合には、定款変更の要件(具体的には、株主総会の特別決議)を満たさない限り、当該事項を変更することはできなくなります。
なお、定款認証においては、絶対的記事際事項などの法令上記載しなければならない事項に不足がないか、定款に法令違反がないか等が公証人によりチェックされることとなりますが、その会社とって最適な定款の内容となっているかどうかは確認対象とされていませんので、注意が必要です。
自分で作成することも可能だが、専門家の支援も有用
定款に必ず規定しなければならないとされる絶対的記載事項は、それほど多くありません。また、定款の雛型を掲載した書籍や、会社設立を支援するインターネット上のサービスも存在します。さらに、日本公証人連合会も、会社の規模に応じた定款の記載例を公開していますので、これらを利用してご自身で定款を作成することも可能です。
もっとも、ご自身の知識が十分ではない場合や、より適切な内容の定款を作成したい場合等には、司法書士・行政書士や弁護士等の専門家にアドバイスを求めるのも有用でしょう。なお、行政書士については、定款作成業務を依頼することは可能ですが、その後に必要となる設立登記の申請手続きを依頼することはできません。したがって、専門家への依頼を検討する際には、料金・費用だけではなく、予めどの範囲の業務を依頼する必要があるのかをしっかり確認した上で、適切な専門家にアドバイスを求めるよう留意しましょう。
定款変更とは?
前述のとおり、いったん定款に記載された事項は、会社法上定められた定款変更の要件を満たさない限り、自由に変更することはできなくなります。
定款を変更するためには、株式会社の場合には、株主総会の特別決議による必要があります。合同会社の場合には、定款を変更するためには総社員の同意を得る必要があります。
さらに、定款変更に伴い登記簿にも変更が反映される場合には、定款変更の実施後に、変更登記を申請することも必要となります。
増資に関わる定款変更とは?
それでは、定款に定められた各項目のうち、どのような事項が増資に関連するのでしょうか。
定款における資本金や株式に関する記載項目
株式会社の定款に記載すべき項目のうち、増資に関連するものとしては、例えば、発行可能株式総数、種類株式を発行する場合における種類株式の内容、株券発行の有無などが挙げられます。他方で、発行済株式の数や資本金の額は、定款には記載されません(これらの事項は、登記簿に反映されます)。
会社種類による違い
有限会社については、現行法の下では「特例有限会社」として株式会社の一形態とされていますので、基本的に上記の株式会社の場合と同様です。
持分会社である合同会社の場合には、株式が発行されていませんので、定款にも株式や株券に関する項目は存在しません。他方で、合同会社の定款には、社員の氏名・住所や出資額等について記載がされていますので、新たに出資が行われる場合には、社員や出資額の変更に係る定款変更の手続が必要となります。
増資において定款変更が必要なケース
次に、これらの増資に関連する定款の項目について、増資に際して定款変更が必要となるケースを紹介します。
株式会社・有限会社の場合
株式会社においては、発行済株式の数や資本金の額が定款の記載事項とはされていませんので、株式の発行により増資を行う場合に、常に定款の変更が必要とは限りません。
ただし、定款所定の発行可能株式総数を超えて株式を発行しようとする場合や、新たな種類株式を発行しようとする場合、新株発行に伴い株券発行の有無を変更しようとする場合等には、株式発行の前提として、既存の定款を変更する必要が生じます。
合同会社の場合
合同会社の定款には、各社員の出資額等が記載されていますので、新たな出資が行われ、社員やその出資額に変動が生じる場合には、社員の加入や出資額の増加に関する定款変更が必要となります。なお、合同会社の増資に関しては、「合同会社の増資の登記とは?申請方法と必要書類を解説」の記事もご参照ください。
増資において定款変更が不要なケース
他方で、増資に関連する定款の項目について、増資に際して定款変更が不要となるのは、どのような場合でしょうか。
株式会社・有限会社の場合
株式会社における株式発行による増資は、既存の定款の範囲内で行われる限り、必ずしも定款変更を必要とするものではありません。例えば、既存の発行可能株式総数を超えない範囲で、普通株式や既存の種類株式を発行しようとする場合には、基本的に定款変更は必要ありません。
合同会社の場合
前述のとおり、合同会社において新たな出資が行われる場合には、基本的に総社員の同意を得て定款を変更する必要があります。
専門家による支援の有用性
このように、増資に際しては、定款変更が不要な場合と定款変更が必要になる場合の双方が存在し、定款変更が必要になるにもかかわらず、それを怠って増資を行ってしまった場合には、増資の効力に影響するケースも考えられます。
増資や定款変更に関する手続や必要書類を自分で準備することももちろん可能ですが、もし知識に不安があったり、迅速かつ確実な手続を希望される場合には、弁護士や司法書士・行政書士等の専門家にアドバイスを求めることも有用でしょう。
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