資本金を増資するメリット・デメリット

募集株式の発行
投稿日:2024.08.09
資本金を増資するメリット・デメリット

企業は設立時に資金の拠出を受けて設立され、それを元手に活動を行います。この際に出資された資金を資本金と呼びます。資本金は設立時だけではなく、新たに出資を募るなどをして、都度増やすことができ、これを「増資」と呼びます。増資をすることにより企業に資金が集まるので、良いことのように見えますが、デメリットもあります。

本記事では、資金調達方法として融資と増資の違いや、資本金を増資するメリットとデメリットについて解説します。

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資本金の増資とは?

設立時以外に追加で出資を行うことを増資といいます。本章では増資について解説します。

株式会社における資金の調達方法

株式会社における資金の調達方法は大きく分けて、2つあります。

1つ目は、融資(借入)です。金融機関等からする借入金は、利息とともに返済が必要となります。

2つ目は、増資です。株式を新たに発行し、既存もしくは新規の株主が引き受け、株式の対価として資金を得る方法です。正式には「募集株式の発行」とも呼ばれます。

なお、株式を発行しない合同会社においても増資の概念は存在します。合同会社の場合、株式の発行はできないので、出資金による会社の持分割合を通じて行なわれます。

増資と融資との違い

増資と融資の違いとはいったいどのようなものでしょうか? 

もっとも大きな違いは、資金の返済義務があるか否かということです。
増資は株式を発行し、出資者を募ります。出資者に対して、配当などで還元をしますが、出資された金額の返済義務はありません。一方、融資は資金を借り入れることです。借入金ですので、返済義務が生じます。

資本金を減らす減資という手続きもある

資本金を増やす増資の反対に、減らす手続きもあり、これを減資といいます。減資は、株主から受けた出資金を払い戻し、資本金を減らすこととなります。

増資の種類

増資にはいくつかの種類があり、大別するとまず有償増資と無償増資に分けられます。それぞれの違いについて解説します。

有償増資

有償増資とは、新たに株式を発行して資金を調達する方法をいいます。一般的に増資といえば、有償増資を指します。本記事でここまで解説した内容も、有償増資を前提としています。

有償増資でよく用いられる手法としては、第三者割当、株主割当、公募増資などがあります。

第三者割当とは、既存の株主であるかを問わず出資者を募る方法です。株式を有していない自社の役員や取引先、金融機関などとなります。縁故者に対しての株式の割当となるため、縁故募集とも呼ばれます。

株主割当は、既存の株主に対し、株式の保有数に比して株式を割当てる方法となります。A株主が株式の50パーセントを保有しており、あらたに100株を発行する場合、A株主には、50株割当てるというものです。

公募増資は、縁故のある特定の者や既存の株主に問わず、広く株主を募集する方法です。募集価格は時価を基準としますが、時価よりも少し低めの価格で募集されることが多くあります。

また、これら以外にもDESや現物出資があります。

DES(Debt Equity Swap)は、借入金などの負債を株式等の出資にすることをいい、現物出資は、現金以外の不動産などの資産により出資を行うことをいいます。実際に出資を受けた場合、会計上は資本金または資本準備金という科目で計上されます。資本金とは、出資を受けた金額ですが、資本金の2分の1を限度として、資本準備金に計上することができます。

資本準備金とは、資本金に計上されなかった出資の金額です。将来赤字が出たときに資本準備金を振り替ることにより、欠損金をなくすなどの目的で使用することができます。

無償増資

無償増資とは、株主から金銭の払込を受け取らず、剰余金などを資本金に振り替える形式的な増資をいいます。その結果、出資を受けることなく、資本金を増加させることができます。

無償増資は、無償という用語のとおり、現金が増えるわけではありません。帳簿上の資本金を増やす手続きとなります。また、無償増資は、資本構成を変更したいときや資本維持により配当可能限度を確保するなどの目的で行われます。

なお、剰余金などを資本金に組み入れるためには、原則として株主総会の決議が必要となります。

資本金を増資するメリット

資本金を増資する最大のメリットは資金の獲得ですが、それ以外にどんなメリットがあるのでしょうか?融資と対比させながら解説します。



融資と異なり返済が不要

増資のメリットのひとつが、融資と異なり返済が不要という点です。
融資の場合、貸借対照表上では、借入金(負債)として計上されます。負債は返済義務があるものとなります。一方、増資の場合は資本金または資本準備金(純資産)として計上されます。自己資本とも呼ばれるため、返済は不要です。

また、融資の場合、負債である元本に加え、利息の支払いが必要ですが、増資の場合は不要です。

しかしながら、増資の場合、株主からの将来の成長期待や配当による還元などでリターンを求められることとなります。また、経営者と所有者が異なる場合、経営の結果が出ない場合、経営者の交代を求められるケースなども発生します。

社外からの信用度が上がる

資本金を増資するメリットのひとつが、社外からの信用度が上がるという点です。

資本金=会社の規模とも捉えられるので、新規取引時などは、資本金の額を信用度の基準にされる場合があります。信用度が低いと掛取引ができず、前金取引を求められたりそもそも取引をしてくれない可能性もあります。

また、事業によっては許認可の申請などで、資本金額が要件となる手続きもあります。例えば、一般労働者派遣業であれば、自己資本1,000万円、建設業であれば、自己資本500万円などが挙げられます。

パートナーシップを強化する効果

資本金を増資するメリットのひとつが、取引先とのパートナーシップを強化する効果があるという点です。取引先に自社の株を保有してもらうことにより、ただの取引先ではなく、将来的な資本提携にもつなげることができます。

自社や取引先が単独ではできないことも、資本提携をすれば、シナジー効果により新たな事業や価値を見出すこともできます。また、将来のM&Aやグループ化を見据えて、段階的に増資をしていく場合もあります。

資本金を増資するデメリット

資本金は増資をするメリットもある反面、デメリットもあります。本章では代表的なものを紹介します。

会社の一部が他者に所有されることになる

資本金を増資するデメリットのひとつが、会社の一部が他者に所有されてしまう点です。
会社の一部が他社に所有されてしまうことにより、自由に経営を行うことに支障が出ます。

なお、一度株主になってもらった場合、株主をやめてもらうことは、株主が株を手放さないといけないため、難しくなります。持ち株比率によっては、経営権を奪われるということもあります。

融資に比較すると手続きが複雑

資本金を増資するデメリットのひとつが、融資と比較すると手続きが複雑という点です。
融資の場合は、銀行との借入の契約でよいのですが、株式の発行等は株主総会や取締役会での決議が必要となり、さらに法務局への登記申請も必要です。

また、登録免許税などのコストもかかります。コストは増加する資本金の0.7パーセントか3万円のいずれか少ない金額となります。

参考:法務局 募集株式の発行

資本金額によっては税額が大きくなる場合がある

増資によるデメリットのひとつが、税負担が増える可能性があるという点です。

資本金額が1億円以下の法人であれば、法人税は課税所得が800万円以下の部分は軽減税率(15パーセント)が適用されます。

一方、資本金が1億円を超える場合、法人税率は課税所得にかかわらず23.2パーセントとなります。また交際費も全額を損金算入することができないことや繰越欠損金も50パーセントまでしか算入できないということもあります。

このように増資により、資本金が1億円超となる場合は注意が必要です。
また、資本金が1,000万円以上の場合、基準期間が無い場合においても消費税の課税事業者となります。

参考:財務省 法人課税に関する基本的な資料
   国税庁 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例

資本金の増資に必要な手続き

資本金の増資のためには、先に示したとおり、株主総会の決議など一定の手続きが必要となります。以下、手続きの流れについて解説をしていきます。

必要な手続きの流れ

必要な手続きの流れは、以下のとおりになります。公開会社を例に順に説明をしていきます。

①募集事項の決議
②募集株式の引受けの申込み
③割当の決議
④出資の履行(出資金の払込)
⑤増資の登記申請

まず、①募集事項の決議です。原則として、取締役会で決議をします。募集事項の決議では、株式の数や払込金額、払込期日、増加する資本金および資本準備金を定めます。

②募集株式の引受けの申込みでは、株主へ通知を行います。通知は払込期日の2週間前までに行われ、申込みするものは、引き受けしようとする募集株式の数などを書面で企業に交付します。

③割当ての決議は株式の申込みを行ったもののなかから、割当てを受けるものや数を決めます。その後、④出資が履行され、株主から出資金の払込を受けます。
払込後、⑤増資の変更登記を申請します。

増資の登記における必要書類

増資の登記における必要書類は以下のとおりになります。

1. 株主総会議事録
2. 取締役会議事録
  募集事項を行った際の決議書面となります。
3. 株主リスト
  株主の住所、氏名、株式数などを記載したリストで、株主総会の適切な開催を証するものです。
4. 株式引き受けの申込みの書面や総数引受契約書
  企業とこれから出資する株主との間で締結される契約書です。
5. 払込金額を証明できる書類
  銀行口座の通帳の写しなどです。資金を払い込んだことを証明します。
6. 資本金額の計上に関する証明書
  払込みを受けた金銭の額や資本金増加限度額を記載した書面で、払い込まれた資金が会社側で計上されたことを示します。
7. 株式会社変更登記申請書
  増資を行い、株式数や資本金額に変更があったことを登記事項証明書に反映するための手続きに必要な書類です。

以下にて、法務局のWebサイトで配布されているテンプレートのリンクを紹介します。7の登記申請書を中心に必要書類一式がセットになっています。


資本金の増資は、融資と比べて慎重な検討を

本記事では、資本金の増資の概要とメリットやデメリットについて記載をしました。要点は以下のとおりになります。

  • 増資とは、設立時以外に追加で出資を受け、資本金を増やすこと
  • 増資には、有償増資と無償増資がある。
  • 増資のメリットは「返済義務が無い」「社外からの信用度が上がる」「パートナーシップの強化」
  • 増資のデメリットは「会社の一部を他社に所有される」「手続きが複雑」「税負担が増える」
  • 増資の実施後は、法務局への登記が必要


増資は融資と違い利息や返済義務はありませんが、手続きは複雑であり、かつ、経営権の分割など企業運営にとって重要な事項となります。資金を得るときに増資がよいのか融資がよいのか、自社の状況等を鑑みて、慎重に決めていきましょう。

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  • 株主リスト
  • 払込証明書
  • 取締役会議事録
  • 総数引受契約書
  • 資本金の額の計上を証する書面
  • 会計帳簿(DESの場合)


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執筆者

執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム

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