サラリーマンが副業で始めやすい投資のひとつに不動産投資があります。そして、不動産投資をしている方の中には、不動産投資の法人化を検討している方も多いでしょう。
個人から法人化することで、税制面でのメリットがある一方で、登記費用や税理士費用などのコストがかかるなどのデメリットもあります。さらに個人から法人化することで様々な手続きが必要になります。法人化するタイミングの判断も難しいため、なかなか踏み出せない方もいるでしょう。
そこでこの記事では、不動産投資で法人化を検討している方のために、法人化のメリット・デメリットから必要な手続きの一つである登記申請の種類について解説します。
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不動産投資における法人化とは?
法人化とは、会社を設立して法人名義で不動産投資を行うことです。ここでは、不動産投資における法人化の概要について詳しく解説します。
投資主体を個人から法人に切り替えること
不動産投資における法人化とは「投資主体を個人から法人に切り替えること」です。
つまり、今まで個人で行っていた物件購入や賃貸経営などの不動産投資を、会社として行うことになります。法人化する理由のひとつは、節税対策です。このような法人化は「法人成り」や「マイクロ法人」と呼ばれることもあります。
個人で不動産投資を始めて投資規模が拡大してくると、家賃収入が増加します。そして家賃収入が一定額に達して、事業にかかる経費が増えたタイミングで法人化することで節税が可能になります。つまり、個人としての所得税より法人税のほうが安くなるタイミングで法人化したほうが税制面でメリットになります。法人化すべき目安となる年間の不動産所得額の目安は以下の通りです。
個人の所得税と法人税の税率の違い
個人の課税所得金額 | 税率 | 法人の課税所得金額 | 法人税率 |
---|
195万円以下 | 5% | 所得金額800万円以下の 中小法人 | 15% |
195万円超~330万円以下 | 10% |
330万円超~695万円以下 | 20% |
695万円超~900万円以下 | 23% |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 中小法人で所得800万円を 超えた部分 | 23.2% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
参考資料:国税庁|法人税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
参考資料:国税庁|所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
この比較表からも分かるように、おおよそ個人所得額が800万円を超えてから法人化することで、所得税の節税になります。他にも赤字の際の欠損金の繰越や、減価償却の調整、資本金額に応じた消費税の免税(免税事業者の場合)など、税務面でいくつかのメリットがあります。
法人化することによるデメリットや注意点
個人から法人化することでデメリットや注意点もあります。特に費用面での負担が大きくなるのが以下です。
- 会社の設立時の費用(定款作成や設立登記)
- 会社の運営維持に必要な手間やコスト
- 法人住民税など、税金面の負担
会社設立の際には、会社の登記費用や収入印紙代、登録免許税、定款作成費用、司法書士費用などが必要です。
さらに、決算申告や税務など運営維持に必要なコストが個人のときよりもかかります。税理士に依頼する場合は、顧問料などの「士業コスト」が増えることも視野に入れておきましょう。また、設立後は会社の住民税である法人住民税の支払いや役員重任の登記申請(株式会社の場合)など定期的な手続きが必要になることも押さえておきましょう。
法人の種類は株式会社か合同会社が選択されることが多い
不動産投資で法人化する場合の組織形態として多いのは、株式会社と合同会社です。ここでは、株式会社と合同会社それぞれの違いや特徴を解説します。
株式会社と合同会社の主な違い
| 株式会社 | 合同会社 |
---|
設立費用 | 約18万円~ | 約6万円~ |
定款 | 公証人の認証が必要 | 認証不要(作成は必要) |
役員の任期 | 2年(最長10年) | 任期なし |
決算公告 | 必要 | 不要 |
資金の調達 | 株式 | 株式発行できない |
意思決定 | 株主総会 | 社員の同意 |
会社の相続 | 株式による承継 | 定款の定めによる持分の承継 |
株式会社の特徴
大きく資金調達して不動産投資を拡大していきたい方や会社を上場させたい方は、株式会社がおすすめです。また、相続などに備える場合、株式会社の方が適しているといえます。
しかし、会社の方針や意思決定などは株主総会を通して決定するため、意思決定に時間がかかるのが欠点です。さらに合同会社に比べて、設立費用や定款の認証、税理士費用、定期的な登記申請費用などの維持費がかるため出費が大きくなります。
合同会社の特徴
設立コストは株式会社に比べて低いのが特徴です。定款認証や決算公告もないため維持費が安く済みます。株式会社に比べて認知度が低いのが欠点ですが、金融機関の評価には影響しないため問題ないでしょう。
現在は資本金1円でも会社が設立できます。しかし、金融機関から融資を受ける機会が多い不動産投資という業種を前提にすると現実的ではありません。取り扱う物件にもよりますが、少なくとも100万円以上の資本金を準備するのがおすすめです。
不動産投資で法人化してから発生する登記の種類
法人化した場合、どんな登記が必要なのでしょうか。ここでは、不動産投資で法人化する際に発生する登記の種類を解説します。
不動産登記か法人登記に大別される
法人化の際に必要な登記は、大きく次の2つに分けられます。
ここで詳しく見ていきましょう。
不動産登記
不動産投資物件の購入や売却などの際に、個人・法人に関わらず必要になる登記で、投資対象の不動産の権利状況について登記されます。主な不動産登記の種類は、以下の通りです。
- 建物の表示登記(土地に建物を作る際に必要)
- 所有権保存・移転登記(売買などで必要)
- 抵当権の設定・抹消(融資を受ける際や完済時に必要)
- 所有者の住所変更など(所有者が引っ越した際に必要)
なお、登記の申請書類は、自分で作成して申請することもできます。しかし、不動産登記は書類の内容が複雑になることも多く、専門知識も必要になるため、難易度が高くなります。よほど頻度が多く自分でやるメリットが大きい場合はともかく、一般的には司法書士に依頼したほうが安心でスムーズな登記が可能です。
法人登記
法人化する場合に必要となる登記です。個人のままであれば必要ありません。
- 法人設立時の設立登記
- 会社住所を変更する際の本店移転
- 役員の変更
- 事業目的の変更
などが対象になります。
会社の登記簿謄本(登記事項証明書)に記載された事項に変更が生じる際に、登記申請が必要となります。不動産登記と同様、自分で書類を作成して申請することも可能です。
登記の種類によっては、申請する難易度が低いため、司法書士に依頼せず自分で申請する方もいます。法務局に申請に行く時間がない方や、面倒な書類作成が苦手な方は司法書士に依頼するのがよいでしょう。
不動産投資で法人化後に発生する法人登記
不動産投資で法人化後に発生する法人登記の種類について解説します。細かい変更でも登記が必要になる場合があるため、注意が必要です。
本店移転
会社の住所を移転する場合に変更登記が必要です。また、本店住所として自宅の住所を登記している場合、引越しなどの転居時にも登記申請が必要になるため覚えておきましょう。なお、不動産登記でも所有者の住所変更時には登記申請が必要です。本店が移転したら、不動産登記と法人登記両方の変更申請が必要になるため注意しましょう。
代表者の住所変更
株式会社の代表取締役や、合同会社の代表社員の住所は登記簿に記載されています。そのため、転居などで変更になる際は登記申請が必要です。つまり本店移転(本店住所を自宅の住所で登記している場合)と同様、別の住所に引越しした場合、不動産登記と法人登記両方の変更申請が必要になります。
代表者や役員の氏名変更
代表者の住所と同様に、株式会社の取締役や合同会社の代表社員、業務執行社員などの氏名は登記簿に記載されているため、変更登記が必要な項目です。例えば、婚姻などで苗字が変更になる際などが該当します。
目的変更
事業の目的変更をする際にも登記が必要です。法人の事業目的は、設立時に作成する定款で決定し、会社の登記簿謄本に記載されます。
不動産投資として法人化する場合は「不動産賃貸業」「不動産管理業」「リフォーム業」などの事業目的を記載することになります。金融機関からの融資を受ける際や、助成金申請などの際にチェックされる可能性があるため、記載がない場合は目的変更の登記が必要です。新たな物件購入で金融機関からの融資を受ける場合、会社の登記簿上に「不動産賃貸業」など関連する事業目的が記載されていない場合、金融機関の審査に影響する可能性もあるため気をつけましょう。
商号変更
商号とは会社名のことです。あまり発生する機会は少ないですが、会社名を変更する場合にも登記申請が必要になります。
役員変更
株式会社の場合は、人の入れ替わりがなくとも任期ごとに重任の登記が発生します。さらに、株式会社の役員の就任や辞任、合同会社の代表社員や業務執行社員に変更が生じた際も登記申請が必要になります。妻などの配偶者や子どもを役員にする場合などに発生する登記申請です。
増資や株式関連
株式会社における資本金の増加や、株式を新たに発行する場合にも登記申請が必要です。
とはいえ、個人から法人化するケースでは規模や関係者が少ないためこれらの登記機会は少ないといえます。
純粋な資金ニーズ以外にも、融資や物件の取引、法人口座開設などにおいて一定の資本金が必要になることもあるため、資本金を変更する場合は登記申請が必要であることを覚えておきましょう。
法人には登記申請が発生することを押さえておきましょう
近年では、サラリーマンによる不動産投資は珍しくありません。サラリーマンという属性を利用できるため始めやすい投資のひとつです。そして不動産投資が軌道にのれば、所得が増えるのと同様に納める所得税が膨大になります。そのため、タイミングよく法人化して節税対策をすることが重要です。
とはいえ、法人化による変更登記については専門的な知識が必要になるため、理解しにくい方も多いでしょう。この記事の内容を十分に理解しておけば、不動産投資による事業拡大時の法人化にも備えておくことができます。法人化して発生する登記の種類は様々です。いざというときは、専門家である司法書士などに相談するようにしましょう。
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