会社には、株式会社や合同会社、特例有限会社など様々な種類があります。それぞれの形態にメリット・デメリットがありますが、設立時にはいずれかの形態を選択することが必要です。しかし、設立後ずっと同じ会社形態である必要はありません。所定の手続きを踏むことによって、組織変更が可能です。
本記事ではそれらの組織変更のうち「株式会社から合同会社への組織変更」について解説します。組織変更に必要な手続きや、メリット・デメリットなどについても触れていますので組織変更を検討している方はぜひご参考ください。
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株式会社から合同会社への組織変更とは?
株式会社は組織変更を行うことで合同会社へ組織変更が可能です。合同会社への組織変更とは、どういったものなのでしょうか。
株式会社を合同会社に変えることを指す
株式会社から合同会社への組織変更とは、株式会社として設立された会社を合同会社の形態へ変更することを指します。「株式会社の組織変更による合同会社の設立」と呼ばれ、株式会社を解散し、合同会社を設立する手続きをとります。
組織変更は、株式会社から合同会社だけでなく、合同会社から株式会社への変更も可能です。一般的には、合同会社として設立し、必要に応じて株式会社へ組織変更を行うことが多くなっています。しかし、合同会社の知名度が上がってきた近年では、株式会社から合同会社への組織変更も増えてきています。
株式会社と合同会社の違い
株式会社は所有と経営の分離が特徴ですが、合同会社は所有と経営が一致しており、両者における大きな違いとなっています。株式会社では、出資者である株主が会社所有者となり、経営は取締役をはじめとする経営陣が行います。これに対して、合同会社では持分を有する社員が出資者であり、同時に会社経営者であることが特徴です。
両者には会社の所有形態の他にも、主に以下のような違いが存在します。
- 役員任期
- 設置機関
- 利益分配(配当)
- 決算公告
- 会社設立費用
合同会社には、業務執行者の任期の定めがなく、決算公告の義務もありません。株式を発行しない関係から株主総会も不要となり、利益分配に関するルールも異なっています。また、会社設立時の登録免許税においても、株式会社が最低15万円必要なのに対して、合同会社では最低6万円で済むなど、両者には多くの違いが存在します。総じて、株式会社よりも合同会社のほうが手間や費用の面でライトになっているといえます。
株式会社から合同会社に組織変更するメリット
株式会社と合同会社には多くの違いが存在します。では、株式会社から合同会社へ組織変更するとどのようなメリットが得られるのでしょうか。
意思決定や手続きの簡素化
株式会社では、最高意思決定機関として株主総会が設置され、会社の経営方針など重要事項について決議します。重要事項の決定には、出資者である株主の同意を得るプロセスが必要なため、迅速な実行は難しいのが現実です。また、取締役会の決議を要する場合もあり、招集の手続きなどを含め、経営に関する決定はどうしても時間が掛かってしまいます。
所有と経営が分離していない合同会社では、原則として総社員の同意や業務執行社員の決定で意思決定を行います。株式会社と異なり、法定された招集手続きが不要なため、機動的な経営や意思決定が可能なことがメリットとなっています。
また、株主総会では、原則として出資比率(株式の保有割合)に応じて議決権が付与されますが、合同会社では出資比率によらず、また、会社自身の裁量で運営できる面も多くあります。いわゆる定款自治と言われるものですが、株式会社に比べて広いことも、合同会社のメリットの一つです。幅広い自治が許されることから、合同会社ではより実情に合わせたルールを設定し、柔軟な経営が可能となっています。
利益分配を柔軟にできる
株主は、その保有する株式数に応じ、配当の形で利益分配を受けることになります。つまり、株式会社では、出資比率に応じた利益分配を行っています。合同会社でも原則として、出資比率に応じた利益分配を行うことは変わりません。しかし、合同会社では、定款の定めにより出資比率によらない利益分配も可能です。
例えば、合同会社では、社員の会社に対する貢献に応じた利益分配を行うことも可能であり、利益分配は柔軟に行えます。また、利益分配の手続きをシンプルにすることで、配当管理も不要となります。
維持管理コストの節約
合同会社は、株式会社に比べて会社としての維持管理コストが低く抑えられています。既に述べた通り、合同会社の役員には任期の定めがありません。株式会社の取締役であれば、原則2年の任期が存在し、最長でも10年までとなります。
任期満了した取締役は、再任される場合であっても役員変更の登記が必要です。変更登記には登録免許税が必要なだけでなく、申請にも手間が掛かってしまいます。一方で合同会社の業務執行者である業務執行社員には任期の定めがないことから、変更がない限り、登記申請は不要でコストも生じません。
合同会社では株主総会の開催が不要であることから、招集手続きや総会運営に必要な人員を配置する必要もありません。また、株主が存在しないことから株主名簿の作成など、株主管理に要するコストも不要です。合同会社では、決算公告も不要なため、株式会社から組織変更すれば、維持管理コストの節約につながるでしょう。
株式会社から合同会社に組織変更するデメリット
合同会社には迅速な意思決定や、柔軟な利益分配など、多くのメリットが存在します。しかし、組織変更に当たっては、デメリットにも目を向けなければなりません。
株式を発行できない
株式会社は、株式の発行によって資金調達を行えます。しかし、合同会社では株式を発行できないため、資金調達は社員の追加出資や金融機関からの融資に頼らざるを得ません。株式発行によって、外部投資家から広く資金を集められないことは、資金調達の幅を狭める結果となります。
株式を発行しない以上は、株式市場に上場することも不可能となります。そのため、上場による知名度や信頼性の向上も望めません。しかし、既に十分な知名度を持つ企業や、外部からの資金調達に頼る必要のない企業であれば、株式会社に拘る必要性は薄くなっています。
合同会社自体の認知の低さによる影響
近年では、合同会社の認知度も上昇しています。しかし、それでもなお株式会社に比べれば、低い認知度といわざるを得ません。取引先によっては、合同会社とは取引しないといったケースもあるかもしれません。
ただし、補助金や助成金、許認可の申請において、合同会社であることがマイナスとなるケースはほとんどありません。認知度も上昇傾向にあり、年々影響は薄れているのではないでしょうか。
株式会社から合同会社に組織変更するのに必要な手続き
株式会社から合同会社への組織変更には、所定の手続きが必要です。次項から項目を分けて解説を行っていきます。
組織変更計画の作成
合同会社への組織変更には、組織変更計画の作成が必要となります。組織変更計画に定める事項は以下の通りです。
組織変更後の商号(会社名)を定めます。会社名は変更前と同様でも問題ありません。しかし、会社種別としては合同会社となるため、現在の社名から株式会社の部分は変更する必要があります。
組織変更後の事業目的や本店の所在地を定めます。変更前と同様でも構いません。
- 組織変更後の社員の氏名及び住所、有限責任社員である旨並びに出資の価額
変更後の社員に関する事項を記載します。また、本項目は定款の記載事項でもあります。
合同会社における役員に相当する代表社員や業務執行社員の規定や、出資者である社員の入退社など、合同会社特有の事項について定めます。
合同会社では株式を発行しないため、既存の株式や新株予約権などをどのように扱うか定めます。
組織変更計画に定めた日が、組織変更の効力発生日となります。
作成した組織変更計画は、株主や債権者が閲覧できるように備え置くことが必要です。
債権者保護手続き
債権者には組織変更に対して異議申し立てを行う権利があります。そのため、組織変更を行うには、債権者保護手続きが必要です。効力発生日と定めた日までに債権者保護手続きが完了しない場合には、効力は発生しません。
債権者保護手続きは、官報での公告と個別の債権者に対する催告の二つの方法で行う必要があります。官報での公告は、原則として債権者がいない場合でも必要となり、期間は1か月を下回ることはできません。また、官報での公告と併せ、定款で定める方法(日刊新聞紙又は電子公告に限る)で公告することで、債権者への個別催告を省略可能です。
株式の処理
合同会社では株式を発行しないため、実際に株券を発行している会社の場合は、効力発生日の1か月以上前までに株券提供公告と各株主に対する個別の通知を行います。また、新株予約権を発行している場合には、会社に対する買い取り請求も可能です。
株主からの同意
株式会社から合同会社への組織変更は、会社の性質を大きく変化させるため、総株主の同意を得なければなりません。
合同会社設立および株式会社の解散登記
効力発生後に株式会社の解散及び合同会社設立の登記申請を行います。この手続きは効力発生日から2週間以内に行うことが必要です。
株式会社から合同会社に組織変更した事例
株式会社から合同会社への組織変更は、外資系企業の日本法人が行う場合が多くなっています。国内での事例と併せて紹介します。
外資系企業の日本法人の事例が多い
インターネット通販大手Amazonの日本法人は、2016年に「アマゾンジャパン合同会社」へと組織変更を行っています。また、「アップルジャパン合同会社」や「グーグル合同会社」など、外資系企業の日本法人は、合同会社への組織変更を多く行っています。
外資系企業の日本法人が合同会社へ組織変更する理由には、会計監査などを本国の基準に合わせて運用できることが挙げられます。日本の株式会社であれば、監査役や会計監査人などを設置しなければなりませんが、合同会社では不要です。そのため、本国のルールに合わせた柔軟な会社運営のために、合同会社という形態が選択されています。
また、アメリカ企業の日本法人が合同会社である場合には、パススルー課税(法人や組織に課税せず、構成員に課税する方式)が選択できることも、合同会社が選ばれる理由となっています。
国内企業における事例
株式会社から合同会社への組織変更を行うのは外資系企業の日本法人だけではありません。国内企業であっても、合同会社へ組織変更を行う場合があり、DMM.comなどを例に挙げることができます。
DMM.comは、2018年に株式会社から合同会社への組織変更を行っています。組織変更の背景には、柔軟で迅速な意思決定が必要であったことが挙げられます。外資系企業の日本法人の場合とは異なり、会計制度や税金の問題で組織変更したわけではありません。
また、十分な知名度を持つDMM.comは、上場による知名度の向上や資金調達の観点からも株式会社である必要性がないともいえます。そのため、自由な経営が可能である合同会社が自社に適した形態であると判断し、組織変更を行っています。
組織変更とメリット・デメリットをしっかり理解しましょう
株式会社から合同会社への組織変更は、単なる名称の変更に留まらず、会社の性質そのものを大きく変化させます。合同会社への組織変更は、自由な経営が可能であるメリットの一方で、資金調達や認知度の面でデメリットが存在します。必要とされる手続きと併せてメリット・デメリットを理解することで、自社にとって最適な会社形態を選択しましょう。
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