一人会社とは従業員を雇っておらず、代表者であるオーナーが単独で経営する会社の通称です。一人社長と呼ばれるケースもあります。
事業活動そのものは会社を設立せず個人事業主として行うことも可能であるため、わざわざ一人会社を興す意味がわからない・個人事業主のままで良いのではないか、と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
今回は一人会社について、個人事業主との違いや、個人事業主と比較したときのメリット・デメリットを中心に解説します。
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一人会社(一人社長)とは?
一人会社(一人社長)は文字通り、従業員を雇わず社長がひとりで経営・運営する会社を指します。
この章では一人会社の概要や簡単な歴史を紹介します。
代表者であるオーナーが単独で経営する会社
一人会社は代表者であるオーナーが単独で経営する会社です。一人社長やマイクロ法人と呼ばれることもあります。フリーランスの法人成りや、資産管理会社の節税目的などで設立されることが多いということが特徴です。
前述のように、一人会社にほかの役員や従業員などは在籍していません。社長一人という性質上、代表者が株式や持ち分をすべて所有した状態であり、社長単独の意思決定で経営されます。
持ち分・意思決定権すべてを一人が有する点で個人事業主と似ていますが、あくまで会社として成立しています。会社法や法人税法のルールに従って運営するため、個人事業主とは異なる存在です。
会社の種類は問わない
一人会社は会社の種類を問いません。株式会社・合同会社どちらの形態でも一人会社の設立が可能です。株式会社の社長は代表取締役、合同会社の社長は代表社員と呼び名が異なりますが、性質に大きな違いはありません。
ただし、合資会社に限っては一人会社の設立が不可能です。
合資会社は有限責任社員と無限責任社員の両方によって構成されます。設立において最低でも有限責任社員一人・無限責任社員一人の計二人が必要であり、社長一人のみの会社が実現し得ないためです。
2006年の新会社法施行がきっかけで増えてきた
一人会社は2006年の新会社法施行がきっかけとなり増加しました。
具体的な理由として、以下の2つが挙げられます。
- 資本金や役員の上限が緩和され会社設立のハードルが下がった
旧制度は会社設立のために必要な資本金の最低額が株式会社で1,000万円、有限会社で300万円でした。また株式会社の場合、取締役会・取締役三人以上・監査役一人以上の設置が必要でした
- 合同会社の開始で設立・運営コストの低い会社が作りやすくなった
合同会社は新会社法によって設けられた会社形態です。株式会社よりも会社設立にかかる法定費用が安く手続きが容易であり、設立・運営コストの低い会社が作りやすくなった点も、一人会社が増えた理由といえます
一人会社(一人社長)と個人事業主の違い
一人会社と個人事業主の大きな違いは以下の3つです。
- 法人であること
- 収益や費用の流れ
- 事業の責任の範囲が異なる
それぞれ詳しく解説します。
法人であること
一人会社は文字通り会社、すなわち法人です。
社長一人のため事業の進め方は個人事業主と似ていますが、法人と個人事業主では以下のようにさまざまな相違点が存在します。
個人事業主は開業届の提出のみで事業を開始できますが、法人は法務局への登記申請および資本金の払込が必要です。会社設立登記が完了すれば、以降は法人として契約主体になります。
株式会社の場合、株式発行による資金調達が可能です。
個人事業主の所得にかかるのは所得税ですが、法人の場合は法人税がかかります。そのほかにも税制や会社法におけるさまざまな違いがあります。
一人会社の場合、会社設立後に法人名義で事業用の口座を開設するのが一般的です。個人事業主は個人名義の口座を事業用としても利用していたり、口座名義人に屋号が含まれていないケースが多くみられます。
収益や費用の流れ
収益や費用の流れも、一人会社と個人事業主で大きく異なる点です。
法人である一人会社の場合、売上などの収益や事業にかかる費用は会社を通じて支払われます。事業によって得た収益がそのまま社長の財布に入るのではなく、会社から報酬や給料の形で受け取るのです。
個人事業主の場合は給与という概念がなく、事業によって得た収益がそのまま事業主である個人の収入になります。
このように、一人会社は個人事業主と違い、個人と法人のお金を区別して管理する必要があります。一人会社と個人事業主の違いを考える上で重要なポイントです。
経営の責任の範囲が異なる
一人会社と個人事業主では、経営における責任の範囲が異なります。
前提として、有限責任と無限責任それぞれの意味を紹介します。
会社の債権者に対して、出資額を限度に責任を負います。たとえば資本金として100万円出資した人は、会社に500万円の債務があったとしても、支払い義務が生じるのは100万円のみとなります。
会社の債権者に対して負う責任に上限がありません。会社が倒産し会社の資金で債務を返済しきれない場合、自身の財産も債務返済に充てる必要があります。
個人事業主は、個人と事業者が同一であり、個人に対して事業が依存している存在です。そのため訴訟や負債、廃業などが発生した際、すべての責任を負う必要があります。
一方で法人の場合、会社種類によっては有限責任です。
前述した株式会社と合同会社はいずれも有限責任であり、出資金を限度額に責任を負います。社長一人の会社であっても、会社の種類が株式会社または合同会社の場合は、社長が負う責任は出資金が上限となります。
なお、法人でも無限責任となる会社種類があるので注意しましょう。
- 合資会社:有限責任社員と無限責任社員の両方によって構成されます
一人会社のメリット
一人会社には、社会的信用を獲得しやすい・資金調達をしやすいなどのメリットがあります。
個人事業主と比較した一人会社のメリットを6つ紹介します。
法人なので対外的な信用を得やすい
一人会社とはいえ、会社設立および運営のためには細かな手続きが必要であり、厳格なルールも個人事業主より多く存在します。その分、個人事業主よりも対外的な信用を得やすい形態です。新規取引先や金融機関などからの信用を得やすいため、事業を進める上で有利に働くでしょう。
なお、信用を重視する場合は合同会社よりも株式会社がおすすめです。株式会社のほうが歴史が長く知名度が高いこと、機関運営のルールや手続きがより厳格ということなどが理由としてあげられます。
資金調達の幅が広がる
資金調達の幅が広がる点も一人会社のメリットです。
金融機関からの融資を受けやすいのはもちろん、法人になることで外部からの出資や社債などによる資金調達手段も生まれます。
補助金や助成金には、法人でなければ申し込み自体ができないものも多いです。
節税できる対象が広がる
法人を設立することで、節税できる対象が広がります。
具体的な対象として、以下の3つが挙げられます。
個人事業主は最大3年間、法人は最大10年間です
所得税は所得額が大きくなるほど税率も大きくなる累進課税であるのに対し、法人税は所得額に関係なく税率が一定です。そのため所得額が一定を超える場合、所得税よりも法人税の方が適用される税額が小さくなります。
個人では損金計上できないものがある個人では経費にできず法人の場合は損金計上できるものとして、給与・社宅家賃・生命保険料(法人名義の場合のみ)などが挙げられます。
上記からも、ある程度の売上規模を超えると法人化したほうがメリットがあるといえます。
有限責任であること
個人事業主は例外なく無限責任ですが、法人の場合、株式会社・合同会社であれば有限責任です。責任の範囲が出資額の範囲内と定められているため、無限責任である個人事業主よりもリスクが低いといえるでしょう。
ただし融資などで経営者が個人保証をした場合などは実質的に無限責任となるため注意が必要です。
相続や譲渡ができる
相続や譲渡により事業の引継ぎができる点も、会社を設立するメリットです。特に株式会社は株式を相続譲渡しやすいため、事業の引継ぎを効率良く進められます。
合同会社の場合は死亡時の相続人への承継など、持分の譲渡について定款にあらかじめ記載が必要だったりと手間はかかりますが、個人事業のままでいるよりは良いでしょう。
法人でなければできない事業がある
建設業・飲食業・運送業・人材紹介業などは許認可が必要です。許認可事業の多くは資本金要件を定めているため、法人であることが前提となります。
個人事業主でも許認可を取得できるケースはありますが、会社よりも難しく手間もかかる上、後に会社設立を行う際は再度許認可を取る必要があります。許認可が必要な事業を行なうのであれば、社長ひとりの場合でも会社設立を行うのが確実です。
一人会社のデメリット
一人会社にはメリットだけでなく、デメリットも存在します。一人会社のデメリットを3つ紹介します。
設立や運営にコストがかかる
個人事業主には発生しない会社ならではのコストとして、以下の例が挙げられます。
登録免許税や定款認証手数料など、会社設立に際して一定の費用がかかります。
個人事業主よりも会社の方が経理面のルールが厳格であり、必要な手続きも複雑かつ高度です。
法人の決算申告は、個人事業主の確定申告よりも複雑で負担が大きいです。また株式会社には公示広告の義務があります。
株式会社の場合、役員重任や株主総会に関するコスト・手間も発生します
個人事業主よりも会社の方が、総合的にコストが大きくなるといえるでしょう。
社会保険料の負担がある
法人には社会保険の加入義務があります。一人会社であり従業員を雇っていない場合でも社会保険に加入しなければなりません。
社会保険料は会社と被保険者が折半します。社会保険料の負担は個人事業主では発生しない、一人会社ならではの要素といえます。社会保険の加入や脱退手続きなど、各種手続きが発生する点もデメリットです。
ただし社会保険は個人事業主が加入する国民健康保険よりも保障が手厚い上、被保険者が支払う保険料自体は小さくなるケースもあります。そのため社会保険の加入義務はデメリットばかりではないので総合的に検討しましょう。
法人であることをやめる際にもコストがかかる
個人事業主の廃業手続きは、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出すれば完了します。もちろん取引先への対応や債権・債務の整理などは必要ですが、廃業手続き自体は容易です。
一方で法人の場合、廃業するためには解散や清算の手続き、登記や公告が必要となります。事業を終えるためにも手間やコストがかかる点は、個人事業主にはない、一人会社ならではのデメリットです。
一人会社のメリット・デメリットを把握した上で検討しましょう
一人会社と個人事業主は、どちらも一人が持ち分を独占した状態かつ単独の意思決定による事業展開が行われる形態で、事業の進め方自体は似ています。
しかし一人会社は厳密には法人形態であり、個人と法人ではさまざまな相違点があります。一人会社ならではのメリットが多く存在する一方で、個人事業主にはないデメリットがあることも押さえておきましょう。
一人会社と個人事業主の違いを押さえ、一人会社のメリット・デメリットを把握した上で、自身に適した形態を選んでいただければ幸いです。
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