個人事業を法人化(法人成り)する手続きは、「株式会社の設立」「個人事業の廃業届」「資産・契約の引継ぎ」の3つです。設立登記が終わったら、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業日から1か月以内に提出し、事業用の資産や取引先との契約を法人へ移していきます。
つまずきやすいのは、この3つが順番ではなく並行して進む点です。廃業届以外にも、青色申告の取りやめ、消費税の事業廃止届出書、給与支払事務所等の廃止届出書など、個人側で出す書類がいくつもあり、期限もそれぞれ違います。資産の引継ぎ方によって税金のかかり方が変わることも、あまり知られていません。
この記事では、法人化の手続きの全体像、廃業届と関連届出の期限一覧、資産を引き継ぐ3つの方法の違い、資産以外に引き継ぐもののチェックリスト、設立後の届出までを順に整理します。
法人化・法人成り手続き 個人事業の廃業届と引継ぎ方法
法人化(法人成り)の手続きは3つが並行して進む
法人化の手続きは、法人側の「設立」と、個人側の「廃業」、その間をつなぐ「引継ぎ」の3系統に分かれます。時系列で並べると次のとおりです。
時期 | 法人側 | 個人側・引継ぎ |
|---|---|---|
設立前 | 商号・本店・資本金などを決め、定款を作成・認証 | 引き継ぐ資産・契約を洗い出す |
設立時 | 資本金を払い込み、設立登記を申請(申請日=設立日) | 現物出資する資産があれば定款に記載 |
設立後すぐ | 社会保険(5日以内)などの届出 | 廃業届(1か月以内)、契約・口座の切替 |
翌年3月 | ─ | 廃業した年の所得税・消費税の確定申告 |
個人事業の最後の確定申告は、廃業した翌年の3月15日が期限です。法人の手続きが終わっても、個人側の手続きは翌年まで続く点を前提にスケジュールを組んでおくと、届出の漏れを防げます。
法人化するかどうか、いつ法人化するかの判断材料は「法人化のタイミングはいつ?判断基準7つと逆算の手順」で整理しています。
株式会社の設立手続きと費用
法人化で株式会社を設立する手続きは、大きく5ステップです。
- 商号・本店所在地・事業目的・資本金・役員などの基本事項を決める
- 定款を作成し、公証役場で認証を受ける
- 発起人の個人口座に資本金を払い込む
- 設立登記の申請書類を作成する
- 本店所在地を管轄する法務局に設立登記を申請する
法人化でかかる法定費用は次のとおりです。
費用 | 金額 | 条件 |
|---|---|---|
定款認証手数料 | 1万5,000円 | 資本金100万円未満で、発起人が自然人3人以下・発起人が設立時発行株式を全部引受け・取締役会なし |
定款認証手数料 | 3万円/4万円/5万円 | 資本金100万円未満/100万円以上300万円未満/それ以外 |
収入印紙 | 4万円 | 紙の定款の場合のみ(電子定款は不要) |
登録免許税 | 資本金×0.7%(最低15万円) | 特定創業支援等事業の証明を受けた場合は0.35%(最低7万5,000円) |
定款認証手数料は2024年12月1日の公証人手数料令の改正で1万5,000円の区分が新設されました。旧来の解説記事では「資本金100万円未満は3万円」とだけ書かれていることがあるので注意してください。
個人事業主が1人で法人成りする場合、発起人も取締役も自分1人という形で設立できます。設立手続きの各ステップの詳細は「株式会社設立の流れ9ステップ|登記申請の方法と費用」で解説しています。
個人事業の廃業届と関連する届出の期限一覧
法人成りで個人事業を廃業するときに出す届出は、廃業届だけではありません。該当するものを確認してください。
届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届) | 税務署 | 廃業日から1か月以内 |
所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 税務署 | 廃業した年の翌年3月15日まで |
事業廃止届出書(消費税) | 税務署 | 速やかに |
給与支払事務所等の廃止届出書 | 税務署 | 廃止日から1か月以内 |
事業廃止の申告(個人事業税) | 都道府県税事務所 | 都道府県ごとに異なる |
対象になる人は届出ごとに違います。青色申告の取りやめ届出書は青色申告をしていた人、事業廃止届出書は消費税の課税事業者だった人、給与支払事務所等の廃止届出書は従業員や青色事業専従者に給与を払っていた人が対象です。
インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしていた場合、事業廃止届出書を出すと、廃止日の翌日に個人としての登録が失効します。登録の取消届出書を別に出す必要はありません。法人でインボイスを発行するには、法人として新たに登録申請が必要です。
個人事業税は、年の途中で廃業した場合、廃業日から1か月以内に申告が必要です。ただし、この期間内に所得税の確定申告をすれば、個人事業税の申告は不要になります(東京都主税局「個人事業税」)。
各様式は国税庁の「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」からダウンロードできます。e-Taxでの提出も可能です。
廃業日をいつにするかの判断材料
廃業届に書く廃業日に法律上の決まりはなく、実際に個人として事業をやめた日を記載します。考え方として、次の判断材料があります。【要確認】
設立日にそろえる場合:法人の設立日(登記申請日)の前日や同日を廃業日にすると、個人と法人の事業期間に空白や重なりが出にくくなります。
引継ぎが終わるまで個人事業を残す場合:取引先との契約や口座の切替に時間がかかるときは、しばらく個人事業を続ける選択もあります。その間は、個人と法人の売上・経費を取引ごとに区分して記帳する必要があります。
廃業後に発生する収入・費用:個人時代の売掛金が廃業後に入金されることもあります。廃業後に生じた個人事業の費用は、一定の条件で廃業した年分の必要経費に算入できる特例があります(所得税法第63条)。
どれを選ぶかで記帳や申告の手間が変わるため、顧問税理士がいる場合は廃業日を決める前に相談しておくと安心です。
資産・負債を法人に引き継ぐ3つの方法
個人事業で使っていたパソコン・車両・在庫などの資産は、そのままでは法人の資産になりません。引き継ぐ方法は主に3つです。
方法 | 法人側の負担 | 主な注意点 |
|---|---|---|
現物出資 | 資金不要(資本金になる) | 総額500万円超は原則として裁判所の検査役調査が必要 |
売買 | 代金の支払いが必要 | 時価の2分の1未満だと時価で譲渡したとみなされる |
賃貸 | 賃料の支払いが必要 | 適正な賃料でないと役員報酬扱いのリスク |
現物出資は、現金の代わりに資産そのものを出資する方法です。現物出資する財産の定款記載額の総額が500万円以下なら、検査役の調査は不要です(会社法第33条第10項第1号)。詳しくは「現物出資で会社設立する方法|500万円の上限と注意点」で解説しています。
売買は、個人と法人で売買契約を結んで資産を売る方法です。時価の2分の1未満の価額で法人に売ると、個人側は時価で売ったものとみなされて所得税がかかります(所得税法第59条)。売買契約書を作り、価額の根拠を残しておきます。
賃貸は、自宅の一部や車両などを個人が所有したまま法人に貸す方法です。個人側は受け取った賃料について確定申告が必要になります。
借入金などの負債は、金融機関の同意がないと法人に移せません。個人の借入を法人で引き継ぐ場合は、事前に金融機関へ相談が必要です。
資産以外の引継ぎチェックリスト
法人成りでは、資産以外にも名義を切り替えるものがあります。個人の契約は法人に自動では移らないため、相手先ごとに手続きが必要です。
- □ 取引先との契約:法人名義で契約を結び直す。請求書の宛先・振込先も変更を依頼
- □ 事務所の賃貸借契約:法人名義への変更には貸主の承諾が必要
- □ 銀行口座:法人口座を新たに開設。個人口座の入金は段階的に切り替える
- □ 許認可:建設業・飲食店営業・古物商などは、原則として法人で新たに取得が必要
- □ 屋号・ドメイン・Webサイト:会社名の表記と運営者情報を更新
- □ 従業員:法人と雇用契約を結び直す。個人事業所の社会保険は「適用事業所全喪届」(5日以内)、労働保険は確定保険料申告(保険関係消滅の翌日から50日以内)
- □ 自分の国民健康保険:法人の社会保険に加入したら、市区町村で脱退手続き(14日以内)
許認可は空白期間が生じると営業できなくなるため、設立前に所管の行政庁へ取得のスケジュールを確認しておきます。
法人設立後の届出と期限
設立登記が終わった後も、法人側で出す届出があります。主な期限は次のとおりです。
届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 年金事務所 | 設立から5日以内 |
保険関係成立届(従業員がいる場合) | 労働基準監督署 | 雇用した日の翌日から10日以内 |
法人設立届出書 | 税務署 | 設立から2か月以内 |
青色申告の承認申請書 | 税務署 | 設立から3か月以内(最初の事業年度終了日の前日のほうが早ければその日まで) |
社会保険の5日以内という期限は、登記の完了を待っていると間に合わないことがあります。GVA TECHの労務手続き調査では、設立直後に手続きの期限を落とした経験がある人は25.2%でした。
法人成りの場合は、個人側の廃業届(1か月以内)と法人側の届出が同じ時期に重なります。法人側の届出の全体は「会社設立後にやること13項目|提出期限の早見表つき」で一覧にしています。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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