本記事では、「コンサルティング会社設立における定款内の事業目的の記載例」について解説します。
実は、この記事を書いている筆者自身、以前不動産コンサルティングの会社を設立したことがあります。その際にも、定款に何を入れるべきか、入れすぎて困ることはないか、付随する事業はどんなことがあるか等、多くの事に留意しながら進めてきました。
本記事では、実際の設立経験を通じて、事業目的の概要や、「事業目的の記載におけるルール」「実際の記載例」など当時の自分が見て参考になるようにご紹介できればと思います。
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定款内の事業目的とは
定款とは会社の根本的な規則やルールを記した文書で、会社設立時に必ず作成されます。事業目的とは、この定款内で記載すべき事項の一つで、会社が営むことができる業務の範囲を定款に具体的に定めた文言を意味します。ここではその定款と事業目的に関して細かく解説していきます。
会社の事業目的が記載される
会社の設立の際には、会社名、代表者、出資金、資本金、決算期等、様々な項目を決める必要があります。これら設立における準備の中でも重要なもののひとつが定款の作成です。定款内には設立時に決めるさまざま事項に加えて、事業目的を記載する必要があります。
会社には、株式会社、合同会社等様々な種類の会社形態がありますが、定款は会社の種類によらず作成が必要です。会社は定款に記載されている事業目的の範囲内でのみ権利能力を有することになります。なお、定款の内容のうち事業目的は履歴事項全部証明書などの登記事項証明書内に記載されるため、契約する際の相手先や第三者も閲覧することが可能な情報となります。
事業目的以外の事業を行った場合において、厳密な罰則等はないですが、金融機関や取引先等との信頼性確保の点においては、記載された目的の範囲での事業を行うことが良いでしょう。なお、旅行代理店、リサイクルショップ等、一部の許認可が必要な業種では必ず記載しなければならない事項がありますが、コンサルティング事業に関しては決まった条文等はなく、常識の範囲内で理解できる文言であれば良いでしょう。
事業目的は定款における絶対的記載事項の一つ
事業目的は、定款においては「絶対的記載事項」に該当します。
会社法第26条、27条で定められている通り、絶対的記載事項とは、文字通り、定款に必ず記載しなければならない事項です。万が一、絶対的記載事項に記載漏れがある場合や違法行為を事業目的にすると、定款そのものが無効となる可能性があるため注意が必要です。
その他に、絶対的記載事項には以下の項目があります。
商号
社名のことを商号といいます。これは自由につけることが可能ですが、同一名称の会社が同じ住所に存在する場合には登記できません。あまり考えられないケースかも知れませんが、会社名の重複がないかどうかは、オンラインでの商号調査等を利用して確認することが良いでしょう。
本店所在地
会社の住所のことで、定款には最小行政区画(東京23区内なら区、郡なら町・村、それ以外は市)まで記載することが一般的です。
設立に際して出資される財産の価額または最低額
会社の運営のために出資される金額になります。会社法上は1円でも会社設立は可能ですが、創業融資を受ける場合は資本金の額が審査に影響する場合もあり、また現実的には1円で運営することはできませんので適切な額を検討しましょう。
事業目的は変更することも可能
会社の拡大や業態変更、許認可の取得などに応じて事業目的を変更・追加する機会が出てくることもあります。この場合、定款変更の手続きによって記載されている事業目的の変更が可能です。
株式会社の場合には定款の変更は特別決議が必要となります(会社法466条、309条)。特別決議とは、「株主総会において①議決権を行使することができる株主の議決権の「過半数」を有する株主が「出席」し、②出席した株主の議決権の「3分の2」以上をもって行う決議のこと」を指します。目的変更の実施後は、2週間以内に変更登記の申請が必要です。
事業目的に記載のない事業を行った場合
事業目的に記載のない事業を行った場合、法令上の罰則規定はありません。ただし、記載されている目的と異なる事業を行っていることは、金融機関や取引先からの信頼を下げてしまう可能性があります。
また、許認可や補助金申請・助成金の申請において、登記簿謄本(登記事項証明書)を提出する必要がある場合に事業目的の内容をチェックされることもあります。申請している内容と相違がある場合など、申請の却下や修正が発生する可能性もありますので申請前にチェックしておきましょう。
事業目的の記載におけるルール
ここからは、実際の事業目的の記載に当たってのルールを確認していきます。ここでは前提条件と3つのポイントを重点に解説していきます。
表記ルールと前提となる3つのポイント
事業目的については、英語など外国語での表記をすることは原則として認められていませんが、一般的に認知されている「OA機器」や「LAN工事」等の用語は問題ありません。
なお、事業目的の記載を決める上では3つのポイントがあります。
・適法性
・営利性
・明確性
以下にてそれぞれ解説していきます。
適法性
適法性とは、目的が違法でないということを意味します。たとえば違法薬物の売買等は法律で当然禁止されており、他にも公序良俗に反する内容でないことも記載してはいけません。
また、弁護士や税理士のように有資格者のみが独占して行える事業に関しても、無資格者や資格取得予定者の場合であっても事業目的とすることはできません。資格取得予定者に関しては、必ず必要な資格を取得してから事業目的に記載するようにしましょう。
営利性
株式会社や合同会社等の営利を目的とする営利法人においては、営利の可能性のない目的は原則として記載することはできません。ただし、一定の公共性が表現され、収益の上がる可能性がある事業については、目的に定めることが認められています。
明確性
目的は、誰が見ても内容が同じように理解できる明確な内容でなければいけません。必ずしも具体的な内容である必要はありませんが、特殊な専門用語や造語のみになっていないことが求められます。
コンサルティング会社における事業目的の記載例
ここからは実際のコンサルティング会社における事業目的の記載例について解説していきます。
コンサルティング会社とは?
そもそもコンサルティング会社とは、企業や組織に対して専門的な知識や経験を活用し、経営戦略、業務改善、技術導入、人材育成などの分野でアドバイスを提供し、問題解決やパフォーマンス向上を支援するサービスを提供する会社です。
コンサルティングには様々な種類があり、一般的には以下のように分類されます。
システム系
IT技術や情報システムの導入、最適化をサポートする会社
例:NTTデータ、アクセンチュア、IBMグローバル・ビジネス・サービス
シンクタンク系
経済や政策、社会問題など幅広いテーマに関する研究や分析を行う会社
例:野村総合研究所、三菱総合研究所、経済産業研究所
税務会計系
会計、税務、財務コンサルティングを提供する会社。
例:(株)エフアンドエム、デロイト トーマツ グループ、PwCあらた有限責任監査法人、
業務特化型
特定の業界や業務プロセスに特化したサービスを提供する会社
例:タナベコンサルティング(飲食)、IQVIAサービシーズ ジャパン(医療)、丸紅ロジスティクス(物流)
組織人事系
組織の効率化、人事戦略の立案や人材育成をサポートする会社。
例:ヘイグループ、マーサージャパン、タワーズワトソン
ビジネスモデル上のメリット
コンサルティングのビジネスモデルは、高い専門知識が必要となる一方、いくつかのメリットがあります。
まず、コンサルティングビジネスの最大の特徴は在庫や仕入れがないため、利益率が非常に高い点です。通常のビジネスにおいては4〜5%の利益率が一般的で、10%付近であれば優秀とされる中、コンサルでは25〜50%という利益率となる企業もあり、財務上の大きなメリットとなります。
東京大学や京都大学などの上位大学の就職先においても人気企業としてコンサルティング企業が選ばれていることから、コンサルでの経験を通じてスキルアップやさまざまな業界・ビジネスモデルへの知見が得られるため、将来の起業を考えている方にとっても早く成長できる業種といえるかもしれません。
コンサルティング会社の事業目的の一般的な記載例
それでは、実際の企業がどのように事業目的を記載しているのかを見ていきましょう。
先ほど例に挙げた企業の事業目的から一部抜粋する形式で紹介します。
システム系(例:株式会社NTT データ)
- 電気通信事業
- 情報処理、情報通信に関する機器及びソフトウェアの開発、販売、構築、賃貸、保守
- 情報処理、情報通信に関するシステムの開発、販売、構築、運用、賃貸、保守、監視及び管理
- 情報処理、情報通信に関するシステムに係る建設工事並びにその他の建築工事及び設備工事の請負
- 経営、事業及び前各号に係るコンサルティング業務
- 経営、事業及び前各号に係る企画、調査、研究、開発、技術支援、各種業務プロセスに関する支援、研修等の業務
- 著作権、著作隣接権、工業所有権、ノウハウその他の知的財産権の取得、利用方法の開発、使用許諾、管理及び譲渡並びにこれらの仲介
- 動産の賃貸、仲介、保有及び管理
- 労働者派遣事業
- その他商業全般
- その他前各号に関連する一切の業務
シンクタンク系(例:株式会社野村総合研究所)
- 経済、金融・資本市場および企業に関する研究調査業務
- 自然科学および産業上の諸技術に関する総合的な研究調査業務
- 人文科学および経営上ならびに国および地方自治体等の政策についての諸問題に関する総合的な研究調査業務
- 経営、各種事業および情報システム等に関するコンサルティング業務
- 情報システム、コンピュータネットワークシステム、ソフトウェア、ハードウェアおよびデータベースの企画、設計、開発、販売、構築管理、保守および運用に関する業務
- 前号に関する建築工事ならびにオフィス環境の設計、監理および施工
- 情報提供サービス、情報処理サービスおよび情報通信サービス
- コンピュータネットワークシステムを用いた通信販売業務および金融業務
- 出版物および電子コンテンツ(電子媒体情報)の製作および販売
- コンピュータソフトウェアおよびハードウェアの賃貸
- 有価証券等に関する投資顧問業務
- 前各号に関する教育研修業務
- その他前各号に附帯または関連する一切の業務
税務会計系(例:株式会社エフアンドエム)
- 生命保険の募集に関する業務および損害保険の代理店業
- コンピューターソフトウエアの開発および販売業
- 経営および営業コンサルティング業
- 法人および個人事業主の帳簿の記帳代行業
- 人材育成のための教育事業並びにカウンセリング
- 通信販売業
- 一般労働者派遣事業
- 有料職業紹介業
- 情報処理システム・インターネットシステムに関する企画、設計、開発、運用、保守、販売、管理、コンサルティングおよび開発請負業
- 再就職支援のためのコンサルタント業務
- 事務用品の販売
- 広告代理業および広告宣伝業
- 旅行業者代理業
- 出版物の製作および販売
- 不動産の賃貸および管理
- 集金代行業務
- 総合リース業およびその代行業務
- ファクタリング業務
- 金融商品仲介業
- 金融業
- 債務保証業務
- 金融商品取引法に基づく投資助言・代理業および投資運用業
- 銀行代理業、信用金庫代理業、労働金庫代理業、信用協同組合代理業、特定信用事業代理業、農林中央金庫代理業、長期信用銀行代理業、その他金融機関のために預金または定期積金等の受け入れ、資金の貸付又は手形の割引、為替取引を内容とする契約の締結の代理又は媒介
- パソコン教室の経営およびフランチャイズシステムによるパソコン教室の経営指導
- 法人および個人の資産運用に関するプランニング
- 法人および個人を対象とする経営・経理に関する講習会、研修会の開催
- 金融商品取引法に基づく第一種金融商品取引業および第二種金融商品取引業
- 損害保険会社に対する特定金融商品取引業務の委託の斡旋および支援
- オフィス・コンビニエンスストアの経営およびその経営指導
- 上記に付帯する一切の業務
業務特化型(飲食)(例:株式会社タナベコンサルティング)
- 経営コンサルティング業務
- 経営コンサルティング事業に関する事業の企画、開発、製作、販売および 輸出入ならびに企画商品の製作および販売
- 企業経営の会計・マーケティング・デジタル等に関するアウトソーシング の受託
- 業種別の事業戦略に関するコンサルティング業務
- 企業財務・会計・オペレーション等に関するコンサルティング業務
- 人材育成および人材開発に関するコンサルティング業務、教育業務および カウンセリング業務
- 企業の合併・提携、事業譲渡、営業権譲渡、有価証券譲渡に関するコンサ ルティング業務ならびにそれらの斡旋および仲介
- デジタルコンテンツの企画、立案、制作、配信および販売
- 情報システム、ホームページ、コンピューターネットワークシステム、ソ フト・ハードウェア、データベースの企画、設計、開発、販売、構築管理、 保守、運用およびコンサルティング業務
- 国および地方自治体等の政策、社会課題解決等に関するコンサルティング 業務
- 企業および商品・サービスのブランディングおよびプロモーションに関す るコンサルティング業務
- 広告代理店業および企業のマーケティング・クリエイティブデザインなら びにイベントに関する企画、立案、運営に関するコンサルティング業務
- 広報PR・IR(投資家向け広報)に関するコンサルティング業務経営全般、人材育成および人材開発に関する研究会およびセミナーの企画、 開催および運営
- 市場調査、市場分析、マーケティング情報収集および分析
- 経営全般に関する情報の収集、蓄積、加工および販売
- 経営全般に関するメディアの企画、開発および運営
- 経営全般に関する出版物の企画、執筆、制作および販売
- 有価証券等の保有、管理、運用および取得等の投資事業
- 投資事業組合財産の運用及び管理業務並びにこれらの受託
- 人材派遣業
- 職業安定法に基づく職業紹介業務
- 不動産の賃貸及び管理
- 各種商品・サービスの輸出入ならびにその媒介、取次または代理
- 旅行業法に基づく旅行業
- 損害保険代理業および損害保険・生命保険の募集に関する業務
- 前各号に付帯する一切の業務
上記のように、「コンサルティング業務」と明記している箇所もあれば、調査、立案、分析、相談等という記載まで各社様々なかたちで記載していることが分かります。
また、種類ごとのコンサルティング会社において用いられやすい目的を紹介します。
システム系コンサルティングの目的例
・情報技術に関するコンサルティング業務及びシステムインテグレーションサービスの提供
・クラウドコンピューティングに関する技術支援及び運用管理サービスの提供
・ビッグデータ解析及び人工知能技術を活用したビジネスソリューションの開発と提供
シンクタンク系コンサルティングの目的例
・経済、政策、社会問題に関する研究及び分析業務
・企業戦略、公共政策、国際関係に関するコンサルティングサービスの提供
・新興市場に関するリスク評価及び市場進出戦略の策定支援
税務会計系コンサルティングの目的例
・会計監査、税務コンサルティング及び財務アドバイザリーサービスの提供
・国際税務戦略の立案及び税務リスク管理サービスの提供
・M&Aに伴う財務デューデリジェンス及び企業評価サービスの提供
業務特化型コンサルティングの目的例
・医療業界向け経営戦略策定及び業務改善コンサルティングサービスの提供
・小売業向けのサプライチェーン最適化及び顧客関係管理(CRM)戦略の提案
・製造業における生産性向上及び品質管理システム構築の支援
組織人事系コンサルティングの目的例
・人事戦略の策定支援、組織開発及びリーダーシップトレーニングプログラムの提供
・従業員エンゲージメント向上及びパフォーマンス管理システムの構築支援
・労務リスク管理及び働き方改革に関するコンサルティングサービスの提供
自社ならではの事業目的がある場合の記載例
これまでは、既存のコンサル業務を網羅するかたちでの事業目的を解説してきましたが、特別な分野でのコンサルティングを目的とする場合には、その分野に特化した記載を入れるのが望ましいでしょう。例えば「サウナ施設運営に関するコンサルティング」や「ECサイト運営に関するコンサルティング」など、より具体性を伴うことで誤認を未然に防ぐことにも繋がります。
なお、事業目的の最終号においては「上記各号に附帯又は関連する一切の事業」をという一文を追加することで、幅広くカバーできるため、この一文を追加しておくことをおすすめします。
定款の事業目的は会社の方向性を示す重要な事項
ここまで、コンサルティング事業における定款の事業目的について解説してきました。
定款を作ること、さらに事業目的を決めることは会社設立の一歩であり、今後の会社の方向性を決定する重要な指針となります。私も、自分の会社の定款を作る際には、士業の先生に任せきりにせず自分で全ての条文を作り、特に事業目的については短期、中期、長期的な視線をもって内容を決めていきました。
皆様もコンサルティング業務での会社を設立する際には、今回の記事を参考にしていただければと思います。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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