履歴事項全部証明書など会社を証明する書類(商業登記簿謄本と総称されることもあります)にはその会社の代表取締役の住所が記載されているということはご存知でしょうか?
近年の個人情報保護やプライバシー意識の高まりをふまえると、現代でもそんな情報が見られることが信じられない方も多いかもしれませんが、現時点では閲覧が可能になっています。
この情報の表示の妥当性については以前から議論がされており、ドメスティックバイオレンスやストーカーなどの犯罪被害者については閲覧できないようにするといった方針も検討されていました。その結果、2022年2月15日に法務省より、「DV被害者等である代表者の住所は、登記事項証明書に表示しない措置を講ずること」「法人登記情報をネット上で閲覧できる有料サービスについては代表者の住所の開示をやめること」が発表され、パブリックコメントの募集が開始されました。
本記事では、代表取締役の住所表示について、どんな理由で表示がされているのか、表示することでの問題点について解説します。
商業登記簿謄本における代表取締役(社長)の住所表示の現状と問題について解説

なぜ商業登記簿謄本に代表取締役の住所が記載されているのか?
これはひとことでいうと「会社法で定められている」からです。
会社法第911条第3項では、「登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない」と規定されており、「目的」や「商号」、「資本金の額」などと併せて、「代表取締役の氏名及び住所」が登記事項として挙げられています。
代表取締役の住所が登記される理由としては、訴訟などの責任追及の際に、その実効性を確保するためとされています。また、その他にも以下のような理由や利用が考えられます。
①会社の信用情報のひとつとして閲覧される
新規に取引を開始する前の与信調査として代表者の住所が確認できます。住んでいるエリアの確認や、住所から不動産登記を確認することで抵当権の設定などもわかり、持ち家なのか賃貸なのかの推測も可能です。
②登記懈怠の過料の制裁の通知先
本店移転や役員変更など、会社において変更登記が生じた際に申請を怠ってしまうことを「登記懈怠(とうきけたい)」といい、懈怠が生じると過料(制裁金のようなもの)の支払いが必要になる場合があります。この連絡先の一つとして代表取締役の住所が用いられる場合があります。
その他にも、何らかのトラブルで会社と連絡が取りにくくなった場合の連絡手段として代表の住所が有効という考え方もあります。ただし、上記のような理由で住所情報が必要となるケースは稀であり、そのためにすべての企業の代表住所の掲載が必要なのか?ということが論点のひとつになっているのです。
登記簿謄本に代表取締役の住所が記載されることによる問題
現在の登記情報では、簡単にいうと「あの社長はどこに住んでいるのか」がわかることになり、以下のような問題・リスクが想定されます。
①資産状況や住宅事情などのプライバシーを知られてしまう可能性
住所がわかることで、住んでいるエリアや不動産登記簿が閲覧できます。不動産の権利関係や取得タイミング、抵当権の設定状況(によりローン状況などもわかる)などを調べられます。現地に行って物件を見れば、持ち家なのか賃貸なのか推察したり保有する自動車などの保有資産を知ることもできるかもしれません。
また、住所がわかれば、たとえば取引の過程で恨みを持ったり、競合関係やそれに伴う訴訟対応などが原因で悪意を持った嫌がらせをされるきっかけになる可能性もあります。
②訪問営業や飛び込みの対象となってしまう可能性
経営者は一般の人に比べると高収入の可能性が高くなります。これを狙って高額商品の売り込みやダイレクトメール送付など営業行為のターゲットとなってしまう可能性があります。
③家族への危害や嫌がらせをされる可能性
可能性としては低いですが、自宅付近に不審者が出没し家族と接触を持とうとしたり、最悪の場合は誘拐や恐喝などの犯罪につながる可能性もあります。
今後は登記簿謄本に代表取締役の住所が記載されなくなる?
2022年2月15日に、法務省より「2022年9月1日より法人登記情報をネット上で閲覧できる有料サービスについて、企業の社長ら代表者の住所の開示をやめる」との発表、およびパブリックコメントの募集が開始されました。
この「法人登記情報をネット上で閲覧できる有料サービス」というのは、法務省が運営する「登記情報提供サービス」です。また、民間の事業者が提供するサービス(例:GVA 登記簿取得)が交付請求を代行する形式でも閲覧できます。
これらのサービスでは、クレジットカードなどでPDF形式の登記情報を取得できるサービスで、登記情報を手軽かつスピーディに確認する手段として広く利用されています。今回の変更により、これらサービスで閲覧できるPDFファイルでは代表者の住所表示がされなくなるというわけです。
関連記事:登記情報提供サービスとは?オンラインで閲覧できる登記種類や料金を解説
なお、法務局で取得できる履歴事項全部証明書などの書類には引き続き代表取締役の住所が記載されます。
つまり、インターネットから手軽に取得できる登記情報においては代表取締役の住所が記載されなくなり、法務局に行ったり郵送で請求するなど、少し手間をかけて取得する書類では閲覧できることになります。
引き続き、法務局に行くなど手続きを行えば住所は見れますので効果は限定的とも言えますが、流れとしては今後議論が進んでいけば非表示となる対象が増えていく可能性もあるでしょう。
開示/非開示だけでなく制度自体の有効性も課題
会社の代表者の住所が登記簿に掲載されるのには上述した理由があります。
ただし、大半の経営者は自宅の住所が登記簿に表示されていてもいなくても誠実に経営しています。もし何らかの悪意をもってペーパーカンパニーを作るような場合はそもそもきちんとした住所を登録しない可能性が高いので、見れる見れないは関係ないという考え方もあります。(多少の抑止力になるかもしれませんが)
代表者の住所の変更登記申請時にも住民票や印鑑証明書の確認が必要なわけではないため、そのような会社は最初から本店住所はもちろん、代表取締役の住所でさえも架空の住所を登録することは十分考えられます。
こういった面での実効性が弱いわりに、きちんと登録している経営者の住所が容易に閲覧できてしまうのが根本的な問題ともいえるでしょう。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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