会社の商号(社名)や本店所在地、代表者や役員の氏名、株式や資本金などの、その会社に関して登記されている事項は登記事項証明に記載されており、会社の関係者でなくても交付請求すれば誰でも閲覧することができます。
いくつかある登記事項証明書のうち最も利用頻度が高いのが「履歴事項証明書」です。
本記事ではこの履歴事項証明書について、基礎知識から記載項目、利用シーンなどを解説します。
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履歴事項証明書とは?
登記がコンピュータ化される前に「登記簿謄本」と呼ばれていた書類に相当します。会社に関する最新の事項に加え、過去3年(正確には証明書の請求があった日の3年前の日の属する年の1月1日から現在まで)の変更履歴が記載された書類です。
登記事項証明書には、他に現在事項証明書や閉鎖事項証明書、代表者事項証明書がありますが、履歴事項証明書はその中でも情報量が多いため、閲覧される機会の多い書類です。
以下はGVA TECH株式会社の履歴事項全部証明書からの抜粋です。会社法人等番号や商号、本店など基本的な情報からはじまり、実際には数ページにわたって記載されます。
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履歴事項証明書と登記簿謄本の違い
「登記簿謄本が必要です」
と言われたのに履歴事項証明書しかないじゃん。
と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一つ前にもお伝えをしたのですが、履歴事項証明書と登記簿謄本は同じ書類を指します。
以前は登記簿謄本と言われていた書類ですが、現在は履歴事項証明書と呼ばれています。
履歴事項証明書には「全部」と「一部」がある
履歴事項証明書には、記載対象となる事項の種類により「履歴事項全部証明書」「履歴事項一部証明書」の2つがあります。「全部」のほうが記載事項が多い(=証明できる事項が多い)ため、特に理由がなければ請求時には「履歴事項全部証明書」を指定するのがよいでしょう。
「全部」と「一部」それぞれに記載される項目は以下にて解説します
履歴事項全部証明書に記載される項目
会社の種類によっても異なりますが、履歴事項全部証明書にはどんな会社でも共通の項目として7種類の「区」という単位で情報が記載されています。株式会社の場合はこれら7種類に加えて5種類の区があります。
①商号区
その会社を特定するのに必要な事項が記載されます。「商号」とありますが会社名だけでなく本店や会社の成立年月日、会社の公告方法など、その会社を特定するための情報が含まれます。
②目的区
その会社の事業の目的が記載されます。他の区では一つの区内に複数の登記事項が含まれることもありますが、目的区は1つだけです。会社の事業内容が記載されており、新規事業を開始する際などに変更することがあります。
③支配人区
その会社の支配人に関する氏名や住所、支配人を置いている営業所などの事項が記載されます。支配人は「支配人」「支店長」といった役職でかつ会社から大きな権限を与えられている人を指すことが一般的です。
※会社法で支配人は「会社に代わってその事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有する者」と定められています。
④支店区
その会社の支店に関する事項が記載されます。もちろんですが、支店がない会社の場合は記載されません。
⑤会社履歴区
その会社の現在までの変遷が記載されます。今までに合併や会社分割を経てきた会社の変遷等がわかる区です。
⑥会社状態区
その会社の現在の機関設計、解散しているかなど会社の状態に関する多様な情報が記録されています。
この区を確認する機会として多いのが、取締役会設置会社、監査役設置会社などその会社がどんな機関設計をしているか確認する場合です。
⑦登記記録区
その会社の登記簿の履歴についての事項が記載されます。
設立等の登記記録が生じた時期や閉鎖、復活した時期や事由について記載されています。
⑧資本・株式区(株式会社)
株式会社ならではの登記事項で、株式の議決権についての「単元株式数」、「発行可能株式総数」「資本金の額」といった事項が含まれています。
⑨役員区(株式会社)
会社の役員について記載する区です。代表取締役の氏名や住所、取締役や監査役の氏名が記載されます。就任時はもちろん、任期を満了した役員の退任や重任といった事項もここに記載されます。
⑩役員責任区(株式会社)
役員が会社に対して損害賠償責任を負う場合などに、その責任を免除や限定する規定について記載されます。
⑪新株予約権区(株式会社)
新株予約権について記載する区です。株式と似ていますが、あくまでも将来株式の発行することができる権利として区別されています。
⑫企業担保権区(株式会社)
その会社が発行した社債に担保がついている場合に記載されます。会社の財産が担保ということになり、担保がついた社債の債権者は他の債権者より優先して返済してもらえるという制度です。
履歴事項一部証明書に記載される項目
履歴事項一部証明書には、前述の7つの区から以下の項目が記載されます。
以下の項目は必ず記載されます。
- 会社法人等番号
- 商号(社名)
- 本店の住所
- 会社の成立年月日
- 公告方法
- 現在の会社の状態(取締役会設置会社、監査役設置会社、解散など)
上記に加えて証明書の交付申請時に必要な区を選択できます。
- 株式・資本区(資本金や株式に関する情報)
- 目的区(会社の事業目的)
- 役員区(代表取締役の氏名や住所、取締役、監査役などの氏名や就任状況)
- 支配人・代理人区(会社の支配人に関する氏名や住所、支配人を置いている営業所など)
履歴事項一部証明書では、「商号区」「会社状態区」の他には選択した必要な区のみが記載されていることになりますので、履歴事項全部証明書に比較すると項目数はだいぶ少なくなっています。
手続きなどの際に「履歴事項証明書」と書いてあると「全部」なのか「一部」なのか迷う場合があるかもしれません。このような場合は「全部証明書」にしておくことをおすすめします。ページ数は多くなりますが、記載項目が幅広くさまざまな手続きに対応できます。
履歴事項全部(一部)証明書が利用されるシーン
会社に関する手続きにおいて、登記事項が記載されている書類を求められることがあります。その際に最も用いられる頻度が高いのが履歴事項全部証明書です。以下のような、会社の状況を確認する必要がある手続きにおいて閲覧されます。
融資や増資などの資金調達時
融資や増資などの資金調達は通常、資金の使用目的を明らかにした上で実行されます。使用目的とされる事業を本当にやっているのか?手続きの過程で伝えられた会社の状況(資本金や株式数、役員体制など)は本当にそのとおりなのか?といったことを確認するために履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の確認がされます。
大きな取引や新規取引開始時
金額の大きい取引や、新規に取引を開始する場合に相手方の与信チェックの一環として履歴事項全部証明書が求められることがあります。会社としての実在性の確認や会社規模の確認、問題のある役員はいないか?といったことが確認されます。
許認可や補助金の申請時
こちらは資金調達時に近いですが、許認可や補助金申請の対象となる事業を本当にやっているのか?申請の基準に合致しているか?などを確認します。たとえば補助金申請において、経営体力の少ない会社の支援を目的にしていれば、その会社の資本金額が基準以内に収まっているか、といった点がチェックされます。
求職者が会社の状況を確認するため
上場していない会社であれば、会社に関する情報はホームページ等から取得するのが一般的ですが、履歴事項証明書を請求することで、より詳細な情報が入手できることがあります。求職者が会社の体力や信用度を把握するために閲覧されることもあります。
会社の経歴を正確に把握するため
履歴事項証明書や閉鎖事項証明書では、過去に会社に生じた変更も記載されます。商号変更や本店移転を複数回していたり、合併や買収を経た会社、などがいつどんな変更があったかを正確にする把握するためにも用いられます。
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執筆者:GVA 法人登記 編集部(GVA TECH株式会社)/ 監修:GVA 法律事務所 コーポレートチーム
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