役員変更の登記というと一般的に「取締役」を対象にすることが多いですが、役員には「監査役」や「会計参与」といった役職も含まれるのはご存知でしょうか?
とくに「監査役」は、取締役ほど数は多くありませんが、一定以上の規模の会社ではたいてい設置されている役職です。監査役という制度自体は明治時代からありましたが、近年コーポレートガバナンスやコンプライアンス意識の高まりとともにあらためて注目されるようになりました。
本記事では監査役の就任を検討している方はもちろん、就任(新任)にあたって登記申請が必要になったけどどうすればいいかわからない方、手続きを簡単に済ませる方法を探している方向けに、基礎知識から手続きの詳細、かかる費用や時間、手間をかけずに申請する方法まで紹介します。
なお、取締役の就任の登記申請についてはこちらの記事もご覧ください。
関連記事:株式会社の役員就任(新任)登記申請ガイド〜役員変更の種類から申請方法、必要書類、費用までを完全解説します
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監査役とは?
「監査役」とは、株式会社において取締役や会計参与など役員の業務を監査や監督する役職です。その会社が経営において業務や会計上の不正がないかをチェック、是正する役割を担います。「取締役」と並んで会社の役員の一つですが、どの会社でも取締役よりは人数は少ないのが一般的です。
取締役会を設置している会社や会計監査人を設置している会社では監査役の設置が義務付けられており、取締役と同じように株主総会で選任され、委任契約のもとで職務にあたります。なお、監査役の設置が義務づけられていない会社であっても、任意に設置することは可能です。
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監査役「会」とは?
監査役についての議論でよく登場するキーワードが「監査役会」です。
法律上、監査役会は「半数以上の社外監査役を含む3名以上の監査役で組織される合議体で常勤監査役を選定しなければならない」と規定されています。
この監査役ですが、設置が義務付けられているのは公開会社かつ大会社です。これ以外の会社では、任意で設置することができます。ただし、監査役会設置には、少なくとも3名の監査役が必要で、費用や運用面で負担も生じるため自ずと設置できる企業は限られてきます。
監査役会の設置義務や義務付けられている条件を鑑みると、基本的には一定以上の規模の会社のガバナンスやコンプライアンス推進のための制度といえるでしょう。
監査役と取締役の違い
監査役と取締役はともに株式会社の役員ですが、大きく2つの点で違いがあります。
ひとつは、役割と権限です。
取締役は会社の経営を監督する役割で、取締役間でも不正が起きないよう相互チェックが求められます。ただし、取締役間の馴れ合いや人間関係上の理由で効果的なチェックが果たせない可能性もあります。このようなリスクに対し取締役を監査するのが監査役です。
この役割を果たすため、監査役ならではの権限が設定されることがほとんどです。
権限は大きく分けてこの2つです。
- 取締役の職務の執行を監査する権限(業務監査)
- 計算書類等の監査を行う権限(会計監査)
具体的には以下のような権限が含まれます。
- 取締役、会計参与、支配人、その他使用人に対して事業の報告を求める権限
- 会社の業務及び財産の状況の調査をする権限
- 取締役(または招集権のある取締役)に対し、取締役会の招集を請求、もしくは自ら招集する権限
- 取締役が法令や定款に違反する行為をした場合、するおそれがある場合に当該行為をやめることを請求する権限
取締役とのもうひとつの違いが任期です。
取締役は原則2年と定められていますが、監査役は原則4年となります。非公開会社であれば、ともに10年まで伸長することが可能となっています。
一方で、取締役の任期は2年より短くすることはできますが、監査役は4年より短くすることはできません。監査役に求められる役割を考慮すると、ある程度の期間が必要となるため、その地位を強化するために、取締役より任期が長くなっています。
監査役の欠格事由、兼任禁止の条件
監査役はその役割からいくつかの欠格事由(監査役になれない理由)や兼任禁止の条件が定められています。とくに、監査役になる会社との関係性を問われます。以下の条件にあてはまる場合、監査役になれなかったり、就任した場合は兼任する前の立場を辞任したこととなるので注意しましょう。
監査役の欠格事由(監査役になれない条件)
- 成年被後見人もしくは被保佐人または外国の法令上これらと同様に取り扱われている者
- 法人
- 会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律、金融商品取引法、民事再生法や破産法の一定の規定に違反・刑に処せられ、その執行を終わった日(又は執行を受けることがなくなった日)から2年を経過していない者
- 規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
監査役の兼任禁止の条件
- その会社の取締役・支配人・使用人
- 子会社の取締役・支配人・使用人
- 子会社の会計参与・執行役(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)
※取締役には代表取締役も含まれます。
役員(取締役・監査役)の就任(新任)とは?
一般的には今まで役員でなかった人が新しく役員になることをいいます。
「就任」と「新任」は似たような単語で同じ意味合いで使われることも多いですが、厳密には若干ニュアンスが異なります。
就任:幅広く役員に就くことを指し、いままでの地位や役職は問わない
新任:今まで役員陣、取締役会にいなかった人が新しく役員に就くことを指す
用語的にはどちらを使っても問題ありませんが、後述する登記申請書内や、登記簿謄本内では「就任」と表記されるので注意しましょう。
役員(取締役・監査役)変更の種類
就任の他に、役員変更には5つの種類があります。これら変更を実施するには、株主総会の決議(辞任や死亡を除く)および登記申請が必要になります。
重任(再任)
任期満了後に再び就任するケースで再任とも呼ばれます。取締役は通常2年、監査役は通常4年の任期(ともに非公開会社の場合は10年までの伸長が可能)と定められており、任期満了後も再び就任する場合は重任の登記が必要になります。
辞任
任期満了を待たずに、任期中に自らの意思で役員を辞めるケースです。役員自身の都合や会社の経営状況や経営責任によるものなど背景や理由にはさまざまなものがあります。
辞任の場合、原則株主総会の決議は不要です。
退任(任期満了)
当初の任期を満了して役員から外れるケースです。取締役は通常2年、監査役は通常4年の任期(ともに非公開会社の場合は10年までの伸長が可能)と定められており、任期が満了し、再度選任されないと退任することになります。
解任
本人の意思でなく、会社の一方的な意思表示で役員を辞めてもらう場合に解任となります。株主総会での決議により解任が可能ですが、役員の自主的な辞任ではないため何らかの問題が背景にあったり、後になって損賠賠償を求められるといったトラブルの原因になる可能性があります。
死亡
役員が任期中に死亡するケースも中にはあります。その場合は死亡による登記が必要となります。多くの場合、存命中なら健康悪化を理由に辞任することも多いですが、急病や事故の場合など生じることがあります。
株式会社における監査役の選任方法
役員の選任では、事前に候補者の選定や就任承諾のための条件調整なども必要ですが、手続きとしては次のステップを経て行われます。
- 株主総会の開催、役員の選任決議
- 監査役候補者の就任の承諾
- 株主総会議事録や就任承諾書、本人確認証明書などの準備
- 役員変更の登記申請、登記簿上での公示
※任期や員数の変更を伴う場合、合わせて定款の変更も必要です。
もちろん上記以外にも株主総会の招集などの所定の手続きも必要になります。
少なくとも、部長や課長といった役職のように、社内で決定すればいいものではないこということは押さえておきましょう。
就任する監査役の報酬について
会社の役員はその役割や義務が法律で定められており、役員報酬に関しても金額の決め方や変更手続きなど、一定のルールがあります。
新しく就任する取締役の場合、社内の部長など役職者からの昇格という場合も多いですが、監査役の場合は専門性が求められることもあり、特定領域の経験がある人が中途で入ってきたり、社外監査役という立場で就任するケースもあるようです。
どちらにしても役員が多数いる会社なら報酬制度が準備されている可能性も高いので問題ありませんが、そうでない場合は報酬をどうするか検討が必要です。
役員報酬は、給与と比べると以下のような特徴があります。
- 自由なタイミングで変更ができない(変更する場合は事業年度の開始から3ヶ月以内に株主総会等で決議し、議事録を作成する)
- 役員報酬は損金に参入(費用として認められる)するためには、一定の条件がある
自由な役員報酬の変更を認めてしまうと、期中に役員報酬を増減させることで利益操作や税金のコントロールができてしまいます。会社の利益は法人税額にも直結するため、税務署も厳しく取り扱っているのです。
もし社内に役員がおらず、報酬額をどうするか迷ってしまう場合は国税庁が公開している民間給与実態統計調査結果なども参考にすることもおすすめです。企業規模ごとの平均的な役員報酬額などを知ることができます。
監査役が就任したら変更登記申請が必要です
監査役が就任したら登記申請を行います。一般的な株式会社では株主総会と登記申請はセットで必要となる場合があります。株主総会が終わって安心してしまい登記申請を失念してしまわないよう注意しましょう。
取締役や監査役の役員変更は決議しただけでは対外的には効力発生を主張できません。登記申請することで登記簿に反映され、社外からでも役員変更したことを確認できるようになります。
登記申請は、監査役の就任(新任)時だけでなく、重任(再任)や退任、辞任など、役員変更であれば必ず必要なので忘れずに手続きしましょう。
監査役就任の登記申請に必要な書類
新しく監査役が就任する登記申請では、登記申請書を含め以下の添付書類が必要になります。
なお、登記申請書様式(フォーマット)は法務局のWebサイトからダウンロードできます。
- 役員変更の登記申請書(法務局に届け出た会社実印が必要。司法書士に委任する場合は委任状に会社実印を押印する)
- 株主総会議事録(一般的に議事録作成者が押印する)
- 株主リスト(法務局に届け出た会社実印が必要)
- 就任承諾書(新監査役の印鑑は認印でも可)
- 本人の確認ができる書類(住民票の写し、免許証やマイナンバーカードのコピー)※別途印鑑証明書の添付を求められている場合には不要
- 委任状(代理人である司法書士が申請する場合)
上記書類が準備できたら登録免許税納付のための収入印紙を貼付して書類の準備は完了です。
※登録免許税の金額はこの記事内で後述します。
監査役就任の変更登記申請書、必要書類の記入例
では、役員就任(新任)の変更登記申請書の記入例を見てみましょう。
以下は法務局Webサイトでダウンロードできる、監査役の変更登記申請書のテンプレートの抜粋です。(監査役の就任のみでなく、広く変更に対応できる書類になっているのでご注意ください)
記載される項目は、会社法人等番号、社名、本店所在地にはじまり、役員に関する事項(役員の資格や就任日)、登録免許税額や添付書類が並びます。
この書類に押印および、登録免許税分の収入印紙を貼付し、添付書類と合わせて法務局に提出することで登記申請が完了します。
そして、以下は就任承諾書の例です。こちらも上で紹介した、法務局WebサイトからダウンロードできるPDFファイル内に含まれていますのでご参考ください。
監査役就任登記の申請期限は2週間なので注意しましょう
役員変更をしたら、管轄の法務局に2週間以内に登記申請します。定時株主総会で決議される役員変更であれば、総会の翌日を起算日として2週間以内に申請が必要です。役員変更であれば、新任、退任、重任(再任)、辞任、解任などどれも同じ期限の起算方法になります。
※「起算日」は民法140条では「初日不算入」と定められています。期間を定める時は、変更が生じた日の翌日から計算するのが原則です。
なお、役員変更以外の登記申請も原則として変更後2週間以内の登記申請が必要です。登記申請の必要があるならできるだけ早く登記申請する、くらいの感覚でちょうどいいでしょう。
万が一、登記せずに2週間を過ぎてしまったらどうなるのでしょうか?
結論としては、登記申請できなくなるわけではないので、気付き次第できるだけ早く登記申請を行ってください。登記のみの懈怠でなく、役員の選任手続きも懈怠している場合は臨時株主総会の開催と役員選任の決議も必要です。
ただし、登記懈怠したまま放置した場合、その期間に応じて、代表取締役に対して過料(かりょう)という制裁金が科される場合があります。さらに懈怠を続けると、休眠会社とみなされ解散手続きになってしまう「みなし解散」の対象になる可能性もあります。役員変更は任期に差はあれど定期的に発生するので確実に手続きしておきましょう。
監査役就任登記申請を行う3つの方法
登記申請というと司法書士にお願いするしかない、と思われる方も多いと思いますが、実は3つの選択肢があります。
①ゼロから調べて自分で申請する
参考書籍やインターネット上の申請例を参考に自力で書類を作成、印刷して申請する方法です。登記申請は少しでも書類の記載にミスがあると受理されませんので難易度が高い方法です。
②司法書士に書類作成および申請を依頼する
司法書士に丸投げする方法です。申請したい登記種類と変更内容を伝えて、必要書類を作成してもらい申請まで行ってもらうのが一般的です。丸投げできるとはいえ、事前の見積もりや依頼内容のすり合わせなど、それなりにコミュニケーションの時間はかかります。司法書士が直接稼働するという面からも、数万円程度の費用がかかります。
③オンラインで登記申請を支援するサービスを使う
Webサイトに会員登録し、登記申請する情報を入力すると必要な書類を自動作成できるサービスを使う方法です。自動作成なので司法書士より費用が安いこと、自分の好きな時間に作業できます。登記の種類にもよりますが7分程度で入力完了できるので、合計でかかる時間は司法書士より短く済む可能性も高い方法です。
どの方法を選択するかは、コストと労力のバランスで決まります。
ただし、登記申請は頻度も少ない割に申請の難易度が高く、自分で申請するというのはよっぽど頻度が多かったり興味が無い限りは現実ではありません。自分の労力を抑えることは大前提として、どの方法が自分に適しているか検討しましょう。
監査役就任登記申請にかかる費用・料金
登記申請にかかる費用の内訳は3つに分かれています。
①申請書類、必要書類の準備:1万円〜数万円
※司法書士に依頼する場合、役員変更の登記申請の報酬の平均額は28,851円(出典:平成30年の日本司法書士連合会による報酬アンケート)
②役員変更登記申請に必要な登録免許税:1万円(資本金が1億円を超える会社の場合、3万円)
※役員変更の各種類(新任・退任・辞任・重任(再任))はどれも同じ金額です。
③法務局に申請するためにかかる郵送費や交通費:数百円
たいていの方は低額なのでほぼ考慮しなくてもいいでしょう。
上記を合計すると総額で数万円〜10万円程度の費用となります。
②の登録免許税はどんな方法を使っても必ずかかりますので、登記申請の費用を安くするなら①をどこまで節約できるかがポイントになります。
監査役就任の登記申請費用を安くするなら書類作成がポイント
では、できるだけ安く監査役変更の登記申請をするにはどうしたらいいのでしょうか?
そのポイントは、上記①の登記申請書・必要書類の準備をできるだけ安く済ませることです。
②と③は誰がどんな方法でやってもほぼ変わらないからです。
この登記申請書や必要書類の準備は、通常は司法書士に依頼しますが、報酬が数万円程度かかります。(司法書士への報酬の平均額は 28,851円、高いと5万円程度です※)
※参考:日本司法書士会連合会 報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)より
その他の方法としては、自分で調べてテンプレートを参考に自力で作成する方法がありますが、必要な知識が多くなる上、全くミスが許されないので現実的ではありません。
費用と手間や難易度のバランスを考えると、ネット上で必要な書類が自動作成できるサービスを利用するのがおすすめです。1万円前後で申請に必要な書類が全て用意でき、基本的には間違えることもありません。
このようなサービスを利用することで、総額でも2万円程度から役員変更の登記申請が可能になります。
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役員辞任の効力は、該当する役員の辞任の意思表示が会社に到達した時点で発生します。その為、急いで役員辞任登記手続きをしなければならない場合も多く、いざとなってバタバタしてしまうこともあります。そのようなときの備えとして、事前に役員変更手続きの方法は認識しておくと良いでしょう。
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