司法書士という国家資格者は、弁護士などの法律職と比較するとやや馴染みのない職業ではないかと思います。司法書士が扱う業務には、登記業務を中心として裁判書類作成業務などがあります。
本記事では、司法書士が扱う業務について説明するとともに、実際に司法書士に案件を依頼する場合の報酬や実費等はどのくらいを目安にしておけばよいかなどについて解説します。
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司法書士に依頼した際の報酬とは?
実際に司法書士に業務を依頼した場合には、どのような報酬規定や費用の仕組みになっているのかについて確認していくことにしましょう。
以前は報酬基準制度があった
司法書士の報酬基準は、以前は一律のものが存在していました。ところが、平成15年にこの共通の報酬基準制度が廃止され、現在では司法書士ごと(事務所ごと)で自由に報酬額を定められることになりました。
ただし、自由に定められるといっても、司法書士はあらかじめ報酬額の算定方法やその基準を定め、依頼者に示さなければなりません。
ただし、平成15年以前の名残もあり、司法書士の報酬にはおおよその相場というものが存在します。
司法書士費用の計算方法
司法書士に支払いを要する費用には、大きく分けて2種類の費用があります。1つは「報酬」です。
報酬は、上述のとおり司法書士ごとに報酬基準を定めていますので、依頼する事務所で異なってきます。詳しくは、後述の「登記業務の報酬」のところで解説します。
司法書士に依頼せず、自ら手続きをする場合にはこの報酬については発生しません。
もう1つは「実費」にあたる部分です。
実費部分は、自分で手続きをした場合にも必ず必要となる費用です。司法書士の費用のうち、実費の部分がかなり大きくなる場合があります。例えば司法書士に登記業務を依頼する場合には、法務局に申請する際に納める「登録免許税」という税金(収入印紙代)が必要となり、この登録免許税が高額になる場合があります。また、実費としてほかに必要となるものとしては、郵送費や交通費、登記事項証明書の取得費用などがありますが、こちらは基本的にさほど高額になることはありません。
以下に実費の内訳について詳しく見ていくことにしましょう。
登録免許税
登記とは、不動産(土地・建物)や法人についての情報を法務局で登録しその情報を管理しているものです。その登記の情報について変更等が生じた場合に、原則として法律に基づいて書類を作成し当事者が申請するものとされています。
この場合に提出する申請書に収入印紙を貼付しますが、これを「登録免許税」といいます。登録免許税の額は、法律で決められていますので、それに基づいて算出します。
一例を挙げると、土地を購入し所有権を売主から買主に移転する登記を申請する場合には、不動産の評価額の1000分の20(現在は軽減措置のため1000分の15)の税率をかけて算出したものが登録免許税となります。仮に土地の評価額が1000万円である場合には、20万円分(現在は軽減措置のため15万円分)の収入印紙を貼付して申請することになります。
このように、申請する登記の種類ごとに法律で登録免許税の計算方法が定められていますので、それをもとに算出して納めることになります。そのため、この登録免許税の金額は誰が申請しても同じ額が必要となってきます。
必要経費(実費)
次に、登録免許税以外の実費について、どのようなものが必要となるかを確認していきましょう。
まず、登記を申請する場合には事前に現在の登記の情報を確認する必要があります。
例えば、不動産を購入する場合には、前もって不動産の大きさや種類、現在の所有者などを確認する必要があります。そのためには、現在の登記の情報を確認する必要がありますが、これには法務局で「登記事項証明書」を取得する方法や、簡易な表記のみがされた「登記事項要約書」を取得する方法があります。また、現在ではコンピュータで登記事項の内容を閲覧することも可能となっています。それらをするためには、下記の表に記載してあるとおりの手数料が発生します。
また、登記を申請するためには法律で定められた公的書類(住民票、印鑑証明書、戸籍謄本等)を取得して添付する必要があるため、その取得費用も必要となります。
他には、不動産登記を申請する際の登録免許税算出の基準となる評価額を証明する「固定資産評価証明書」を役所で取得する必要もあります。ちなみに、こちらはコピーでもよく、毎年役所から郵送されてくる「固定資産納税通知書」にも評価額は記載されていますので、その納税通知書のコピーを添付することも可能です。
さらに、法務局や役所などへの交通費や郵送費などの細かい実費も必要となってきます。
主な必要経費
司法書士に依頼できる業務
ここで、具体的に司法書に依頼できる業務種類について詳しく解説していきます。
登記業務
司法書士は一般的には登記の専門家として認識されている通り、最も多い業務が登記申請の代理業務となります。
登記には、「不動産登記」と「商業(法人)登記」があります。不動産登記は、土地や建物について、権利等の内容に変更があった場合にその変更になった事項を登記して公に示しておくものです。例えば、不動産を購入して所有者が変更になった、不動産の所有者が死亡して相続人に所有者が変更になった、所有者が引っ越しして住所が変更になった、銀行から融資を受けて不動産に担保(抵当権等)を設定した、などさまざまな種類の登記申請が存在します。
商業(法人)登記は、会社やその他の法人を新しく設立した場合や、すでに運営存在する会社や法人に本店移転や役員変更などの変更が生じた場合に、その変更した事項を登記して公に示しておくものです。
供託業務
供託とは、法務局に有価証券や金銭を預けて管理を委ねる手続きです。例えば、法律上支払うべき金銭を受け取り手が何かしらの事情により受け取らない場合には、法務局に供託することにより、支払う側は法律による不利益から免れる(支払ったことになる)といったような場合に供託制度を利用することができます。
この場合の供託は、弁済を目的とする弁済供託といわれるものですが、供託にはほかにも様々な種類があります。
書類作成業務
司法書士は、法務局へ提出するための書類作成のほかに、裁判所や検察庁に提出する書類の作成も行うことができます。
次で説明するように、司法書士が裁判の代理(訴訟代理人)になるには一定の制限がありますが、裁判所に提出する書類の作成業務については、額や裁判所の種類に制限はありません。
例えば、家庭裁判所に対する書類作成としては、相続放棄・成年後見人選任申立てなどの家事に関する書類の作成も多く行われています。地方裁判所に提出する書類としては、訴訟書類の作成・自己破産の申立書類の作成などがあります。
訴訟代理・支援業務(認定司法書士)
司法書士資格を得て、特別研修を受けた司法書士が簡易裁判所訴訟代理認定試験に合格すると、認定司法書士となることができ、簡易裁判所の訴訟について訴額140万円以下の事件については、弁護士と同様にその代理人となることができます。
また、裁判以外で行う金銭の請求や和解などについても、請求額が140万円以下のものについては依頼者に代わって相手方に請求することもできます。
相続・成年後見業務
司法書士は、相続に関する手続きのうち不動産登記以外のものについても、一部業務として行うことができます。例えば、遺言を公正証書で作成したい場合の支援や遺産承継業務がこれにあたります。ただし、相続人同士で話し合いがまとまらない場合などに、話し合いの代理人になることができるのは弁護士に限られます。
また、認知症の方の財産管理や身上監護を行う法定代理人を成年後見人等といいますが、
司法書士は平成12年に成年後見制度が成立して以来、積極的に成年後見業務に取り組んできた背景から家庭裁判所に専門職の成年後見人等として選任されることが多くなっています。
登記業務の報酬
司法書士業務のおおまかなところをおわかりいただけたかと思いますので、ここでは司法書士業務の中で最も身近な存在である商業登記と不動産(相続)登記の報酬について解説します。
商業登記の報酬
会社の設立時や登記に記録された情報に変更が生じた場合には、その変更登記が必要になります。これは会社に関する基本的な情報を一般に公開し、信用の維持を図るとともに取引の安全性を高めるという目的があるからです。
商業登記の例としては本店移転や役員変更、会社設立などさまざまな種類がありますが、以下の本店移転登記のケースで、日本司法書士会連合会のアンケート結果による報酬が紹介されています。
事例:
取締役会設置会社である株式会社の本店を管轄登記所の区域外へ移転した場合の本店移転 登記手続の代理業務を受任し、株主総会議事録、取締役会議事録等の全ての書類(登記に必 要な書類)を作成し、登記申請の代理をした場合
このようにどの地区でも平均額は4万円前後となっています。
また、司法書士への報酬に加えて、登録免許税がかかります。
登録免許税額は管轄外本店移転の場合、新しい本店所在地と変更前の本店所在地それぞれの登記申請につき3万円ずつ、合計で6万円かかります。
不動産(相続)登記の報酬
相続登記とは
相続登記とは、不動産を所有していた人が亡くなった場合には、相続人にその権利を移転するために、その所有名義を相続人に変更する手続きのことをいいます。
相続登記を含めた不動産登記のうち司法書士が代理する権利の登記は、登記申請することが義務付けられてはいません。権利に変更が生じたときに不動産の登記申請をしなくても法律違反ではありませんし、罰則もありません。
しかし、相続登記の場合は放置しておくと、時の経過とともにさらにその下の世代が亡くなりますから、次々と相続が発生し、いずれはその登記記録上の所有者の子孫でさえも相続人が誰なのかがわからなくなってきます。
そこで、そのような実質的な所有者が不明の不動産による損失が増大したため、令和6年4月1日より相続登記については義務化されることになっています。これにより罰則規定も設けられますから、相続登記は今後もっと身近なものになってくることが予想されます。
このように今後はこれまで放置されていた相続登記に新たな義務規定が加わることにより、国民の関心が広まっていくところだと思います。そうなると、相続登記を司法書士に依頼した場合の報酬額や費用についても関心のあるところになるでしょう。
相続登記にかかる費用
本章では相続登記にかかる費用を中心に解説していきます。
相続登記の報酬については、司法書士会連合会が調査した全国の地域別報酬平均額によるとおおよそ平均6万円~7万円程度となっています。ただし、この額は一つの目安であり、不動産が多数ある場合や相続人が多くて複雑な場合にはこれよりも高額になることもあります。
相続登記における登録免許税の税率は、不動産評価額に1000分の4をかけて算出した額となっています。例えば、不動産の評価額が1000万円とした場合には4万円が登録免許税(収入印紙代)となります。
また、相続登記の場合には、戸籍謄本などの取り寄せの費用がかかります。戸籍謄本等の公的書類は、発行手数料は高額ではありませんので通常はさほど多くの費用が加算されるというものではありませんが、これらの取り寄せ作業は、法律的な相続関係を理解しておく必要があるため、司法書士に取り寄せ作業を含めて依頼するケースが多くなります。
その場合には、取り寄せ代行を加算した報酬になってくるため、依頼前に確認しておくとよいでしょう。
以下に相続以外の原因で所有権を移転する場合も含めた司法書士会連合会の報酬アンケート結果を記載しておきますので参考にしてみてください。
所有権移転登記(相続)
所有権移転登記(売買1)
所有権移転登記(売買2)
※登記済証(登記識別情報)を紛失(失念)しているため、司法書士が本人確認情報を作成して申請する場合の報酬平均
所有権移転登記(贈与)
※参考:日本司法書士会連合会 司法書士の報酬アンケート結果
司法書士事務所を選ぶときのポイントは?
司法書士事務所は全国各地に多数あります。どのような基準で司法書士を選ぶべきかが難しいところではありますが、以下のようなことに注意して選ぶとよいでしょう。
報酬がわかりやすいこと
酬は、後になってから追加されるといったようなことでは安心して依頼できませんから、わかりやすい報酬になっていることが大切です。
見積をあらかじめ出してもらえること
相続登記の場合などで、戸籍の取り寄せを含めて依頼する場合には、依頼前に戸籍を取得するための実費が何通分かかるかはわかりませんので、不確定要素もあります。しかし、実費部分は誰が行っても同じ価格ですし、実費部分のみであればそれほど高額に変更になることも稀です。したがって、あらかじめ見積額を算出してもらい、報酬部分に大幅な変更がないことを確認しておくとよいでしょう。
説明がわかりやすく、相談しやすいこと
まずは、相談してみて人としての相性なども含めた判断することも大切です。話の内容に専門用語が多すぎて理解できないような場合では依頼できないかもしれませんし、話しにくい司法書士であれば安心して依頼できないということにもなるかと思います。また、実際に資格者が相談対応しているかも判断基準としては大切です。
処理の時間が早いこと
司法書士に依頼するメリットの1つは、自分では難しい内容も迅速かつていねいに処理してもらえる点にあります。あらかじめどのような段取りでいつぐらいまでの目処で完了するかについても確認しておくとよいでしょう。
ポイントを押さえて司法書士に依頼するかを判断しましょう
司法書士業務の種類と報酬について解説してきましたが、結論として登記手続きなどを司法書士に依頼すべきかどうかの判断が難しいかと思います。
そこで、司法書士に依頼すべきかどうかの判断の考え方を最後に解説しておきます。
慣行上、司法書士でないと登記申請できない場合
不動産仲介業者を介した不動産の売買取引などに基づく所有権移転登記や銀行などから融資を受けて不動産に抵当権等を設定する場合の登記は、司法書士以外が登記できるケースはまずありません。法律的にできないわけではありませんが、不備があって取り下げになった場合には損害が発生する可能性があるからです。そのため業界の慣行上、司法書士のみが行うことになっています。
署名捺印書類の再取得がしにくい場合
相続登記は、原則として、仮に登記申請した後に修正できないような不備があったとしても、一旦取り下げをして申請し直しをすることもできるケースが多い登記といえます。しかし、相続人の間で関係性が良くないなどの理由で再度署名捺印がもらえないようなケースでは、最初から司法書士に間違いのない書類作成を依頼するのがベストといえます。
後に不動産の取引が控えている場合
相続登記の後で、すぐにその不動産を売却するようなケースでは、スムーズに相続登記がなされることを見越して売買契約と代金決済までのスケジュールが組まれることがあります。
したがって、このような場合には相続登記に時間がかかり売買のスケジュールが変更になることを避けるため、司法書士に依頼すべきケースといえます。
相当な法律知識を必要とする場合
内容が複雑で、かなりの勉強が必要となる場合には、あまりそこに多くの時間をかけるメリットはありません。登記手続きは、一生の中で頻繁に必要となる手続きではありませんので、苦労して勉強した知識が次に役に立つことは稀であり、また複雑なものを勉強した結果、難しいため結局は司法書士に依頼するケースもあります。
このように、登記手続きには実質的に一般の方が関われないケースや報酬を支払っても司法書士に依頼したほうがよいケースがあります。逆にいえば、期限が限られておらずやり直しがきくケースであれば、その内容がさほど難解なものでなければ自分で調べて登記申請されるのもよいかと思います。
まずは、ご自身が抱えておられるケースがどれにあてはまるのかを検討してから、依頼するかどうかを決定しましょう。
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