会社の住所が変わったとき、「法務局への登記変更は司法書士に依頼」「税務署への届出は税理士」そこまでで完了してしまう経営者は少なくありません。実は社会保険関連でも変更届が必要で、期限も定められています。
本記事では、まだリソースの乏しい、社員を雇用していない一人会社(代表者+役員のみ)のケースに絞って、何をいつまでに・どこに・どんな書類で届け出るかを解説します。
会社の住所変更後の社会保険の届出はいつまで?期限・提出先・書類を解説
会社の住所を移転したら必要な手続き
会社の本店住所は重要な情報であり、その所在地を変更したときに手続きが必要になる領域は広範にわたります。代表的なものは以下のとおりです。
- 法務局:本店移転の登記申請(変更登記)
- 税務署・都道府県税事務所・市区町村:異動届出書の提出
- 年金事務所:社会保険(健康保険・厚生年金保険)の事業所関係変更届
- ハローワーク・労働基準監督署:雇用保険・労災保険の変更届(従業員がいる場合)
- 各種許認可の管轄官庁:業種によって住所変更の届出が必要
- 金融機関・取引先:口座や契約書の住所変更
このうち本記事では、会社設立間もない・代表者+役員のみのコンパクトな会社を想定し、社会保険関連の手続きに絞って解説します。
会社の住所を移転したら必要な社会保険関連の手続き
「社会保険」というと広い意味では健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の総称ですが、手続きの管轄や内容は異なります。会社の規模や状況によって必要な手続きが変わるので、まず自社のケースを確認しましょう。
代表者・役員のみの会社(従業員なし)の場合
社員を1人も雇用していない一人会社であっても、法人として設立した時点で健康保険・厚生年金保険(協会けんぽ)への加入義務が生じます。本店所在地が変わった場合は、同一の年金事務所管内で移転する場合は、管轄年金事務所に提出します。
年金事務所の管轄を越えて事業所の所在地変更(同時に名称変更があった場合を含む)があった場合は、変更前の所在地を管轄する年金事務所に提出します。
必要な手続きは主に以下の1点です。
- 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届
⇒事実発生から5日以内
雇用保険・労災保険は、原則として従業員を雇用した時点で加入義務が発生します。現時点で従業員がいなければ、これらの変更届は不要です。
従業員を雇用している場合(参考)
将来従業員を採用した後に移転する場合は、以下も追加で必要になります。
- 雇用保険事業主事業所各種変更届(ハローワーク)
⇒変更があった日の翌日から10日以内
- 労働保険名称・所在地等変更届(労働基準監督署)
⇒変更があった日の翌日から10日以内
これら本記事では対象外ですが、採用後に移転する際の参考として覚えておいてください。
被扶養者(家族)がいる場合の注意点
配偶者や子どもを健康保険の被扶養者として登録している場合、事業所の住所変更によって事業所所在地が変わります。マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を利用している場合はカード自体に住所情報は紐づいていないため、通常は再発行手続き不要です。
資格確認書が発行されている場合には被保険者記号が変わる際は、自動で再発行されます。
被扶養者の資格自体が変わるわけではないため、「被扶養者異動届」の提出は原則不要です。
オフィス移転後に必要な社会保険手続きの期限・提出先・書類
健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届
項目 | 内容 |
|---|---|
提出期限 | 変更が生じた日から5日以内 |
提出先 | 管轄の年金事務所 |
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届(様式第1号) |
添付書類 | 登記事項証明書(変更後のもの)※電子申請の場合は不要なケースあり |
5日以内というのはかなり短い期限です。本店移転登記が完了してから気づいた場合、登記完了日から5日以内という点に注意してください。登記申請中(完了前)でも届出は可能ですが、添付書類として登記事項証明書が必要なため、実務的には登記完了後すみやかに動くのが現実的です。
書類の入手先
- 日本年金機構 公式サイトからダウンロード可能です。
- 管轄の年金事務所窓口でも入手できます。
提出方法
以下の3つの方法から選べます。
- 窓口持参:管轄年金事務所に直接持参。その場で確認してもらえる安心感がある反面、移動時間が必要。
- 郵送:書類を郵送。簡易書留や特定記録郵便の利用が望ましい。
- 電子申請:オンライン申請も可能ですが、初期設定に時間がかかるのと、設立間もない会社(資本金額が1億円未満の場合など)ではオンライン申請が必須でないことも多いため、設立直後で急いで済ませたいなら書面提出のほうが早いでしょう。
提出期限を過ぎてしまったら?
現実的には期限超過はよくある話
5日という短い期限、そして登記完了のタイミングを把握しながら書類を揃えるのは、日々の業務をこなしながらでは容易ではありません。実際、期限内に提出できないケースは珍しくありません。
まず知っておきたい:罰則はあるが即座に大きな不利益があるわけではない
健康保険法・厚生年金保険法では、変更届の遅延に対して6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています(健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条)。ただし、住所変更届の遅延で実際に刑事罰が適用されるケースはほとんどなく、現実的には年金事務所から指導・督促を受けるという形になることが多いです。
一方、届出をしないままでいると保険証に記載の住所が古いままになり、場合によっては保険給付の手続きで支障が出ることもあります。「気づいたらすぐに手続きする」というのが基本的な対処法です。
遅れてしまった場合の対処法
① 自分で手続きする
書類自体は難しいものではありません。日本年金機構のサイトから様式をダウンロードし、変更後の所在地等を記入して年金事務所に提出するだけです。登記事項証明書(法務局で取得、手数料600円)を添付します。遅延理由を別途説明する必要は通常ありませんが、窓口で状況を正直に伝えるとスムーズです。
② スポット依頼できる社労士を活用する
顧問社労士と契約していなくても、単発・スポット対応してくれる社会保険労務士はいます。「社労士 スポット依頼」などで検索するか、都道府県の社会保険労務士会に相談すると紹介してもらえることもあります。費用は1〜3万円程度が目安ですが、事務所によって異なります。
③ クラウド労務サービスを活用する
SmartHRやfreee人事労務などのSaaS型サービスも書類作成に対応しています。ただし月額サブスクリプション型のため、設立直後でコスト管理を重視している段階では費用対効果を慎重に検討する必要があります。給与計算などの機能もセットになっていることが多く、オーバースペックになる可能性があります。
いつまでも放置するのはNG
「実害がないからいいか」と思いがちですが、年金事務所から調査が入った際に未届けが発覚すると、対応が煩雑になります。また、将来従業員を採用して労務管理が複雑になってからでは、過去の未提出書類への対応も重なって負担が倍増します。発覚した時点で速やかに対処することが最善策です。
会社の住所変更後の社会保険のポイント
会社の住所を変更したあとの社会保険関連手続きのポイントを整理します。
- 従業員がいない一人会社でも、健康保険・厚生年金保険の事業所関係変更届は必要
- 提出期限は変更日から5日以内と短い
- 提出先は管轄の年金事務所、添付書類として登記事項証明書が必要
- 期限を過ぎても気づいた時点ですぐに提出すれば、通常は大きな問題にはならない
- 自分で手続きする、スポットで社労士に依頼するやオンラインサービスを活用するなど、自社の状況に合わせた方法を選ぶ
「設立したばかりで何かと忙しい」「士業に頼むほどのことでもない気がする」「でもどうしたらいいか正確にはわからない」そう感じる経営者こそ、まず手続きの全体像を把握して、自分に合った方法で行いましょう。