会社を設立し、いよいよ最初の社員を採用する。その社員に扶養家族(配偶者や子ども)がいる場合、「資格取得届」に加えて「被扶養者(異動)届」の提出が必要です。知らなければ提出しそびれてしまう書類ですが、届出が遅れると社員やその家族が健康保険が利用できないなど、現実的な不利益が生じます。
本記事では、会社設立直後に必要な社会保険手続きの全体像から、被扶養者異動届の記載内容・提出期限・提出方法を解説。期限を過ぎてしまった場合の対処法や罰則、スムーズに手続きするための便利なサービスもあわせて紹介します。
採用した社員の被扶養者(家族)がいる場合、被扶養者異動届はいつ・どう出す?
会社を設立した直後に必要な社会保険関連の手続き
法人を設立すると、代表者一人の会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務となります。まず押さえておくべき書類は次の3つです。
① 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
会社(適用事業所)として社会保険に加入するための届出です。設立から5日以内に年金事務所へ提出する必要があります。登記事項証明書などの添付書類も必要です。
② 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
代表者を含む役員・従業員一人ひとりについて、保険加入の資格を取得したことを届け出る書類です。被保険者となった日(入社日など)から5日以内に提出します。
③ 健康保険 被扶養者(異動)届
被保険者(社員や役員)に扶養家族がいる場合に提出する書類です。配偶者や子どもを扶養に入れるために必要で、②の資格取得届とあわせて提出するのが基本です。
会社設立直後はやることが山積みで、士業に気軽に相談できる環境も整っていないケースが多いです。会計ソフトや人事労務ソフトを導入していても、設立直後の新規適用や被扶養者の手続きはカバーされていなかったり、サブスクの費用負担が難しいことも多く、まさに「隙間の課題」になりがちです。
なお、従業員を雇用するタイミングでは別途、雇用保険や労災保険のための雇用保険適用事務所設置届や雇用保険被保険者資格取得届の提出も必要になりますが、本記事では社会保険(健康保険・厚生年金)の手続きに絞って解説します。
社員を採用したら必要な社会保険手続き
採用した社員が配偶者や子どもを扶養していた場合、その社員の被保険者資格取得手続きだけでなく、扶養異動手続きも会社が行う必要があります。
※もちろん代表者や役員に扶養家族がいればそれ以前に当然必要になります。
被保険者資格取得届の記載内容
被保険者資格取得届には、被保険者(社員)の氏名・生年月日・基礎年金番号(不明な場合は、マイナンバー)・報酬月額などを記載します。入社日が「資格取得年月日」となり、この日から保険の効力が発生します。
被扶養者(異動)届の基本
被扶養者とは、被保険者(社員)に生計を維持されている家族のことです。具体的には次のような条件を満たす必要があります。
- 年収が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)
- 同居の場合:収入が被保険者の年収の2分の1未満
- 別居の場合:収入が被保険者からの仕送り額未満
被扶養者異動届には以下の内容を記載します。
- 被保険者(社員)の氏名・被保険者番号
- 被扶養者の氏名・生年月日・続柄・マイナンバー(個人番号)
- 認定を受ける年月日(=資格取得日と同日が多い)
- 被扶養者の収入状況・仕送り状況
- 資格確認書を発行するかの要否
配偶者を扶養に入れる場合は、同時に「国民年金第3号被保険者関係届」も提出が必要です。こちらは被扶養者異動届と一体になった様式が使われることが多く、一枚の用紙で対応できます。(テンプレートは本記事の後半で紹介します)
被扶養者異動届の提出期限・提出方法
提出期限
被保険者資格取得届と被扶養者異動届の提出期限は、資格取得日(採用した社員の入社日)から5日以内です。
この「5日以内」というのは非常に短く、採用直後のバタバタした時期に書類を準備・提出しなければならないため、事前に様式を確認しておくことが重要です。
提出先
提出先は管轄の年金事務所(健康保険組合に加入している場合は健康保険組合)です。会社の所在地を管轄する年金事務所に持参または郵送で提出します。
提出方法
書面提出(持参・郵送)
日本年金機構のWebサイトから様式をダウンロードし、必要事項を記入の上、年金事務所へ持参または郵送します。
なお、添付書類として、被扶養者の収入を証明する書類(直近の課税証明書や非課税証明書)、続柄を確認できる書類(戸籍謄本など)の提出を求められる場合があります。年金事務所によって求められる書類が異なることがあるため、事前に確認するか、窓口に持参して確認しながら手続きするとスムーズです。
電子申請
オンライン申請も可能ですが、初期設定に時間がかかるのと、設立間もない会社(資本金額が1億円未満の場合など)ではオンライン申請が必須でないことも多いため、設立直後で急いで済ませたいなら書面提出のほうが早いでしょう。
提出期限を過ぎてしまったら?
現実はどうなのか
「5日以内」という期限は非常に厳格に見えますが、現実には期限を過ぎてしまう会社も少なくありません。採用時の手続きが立て込んでいたり、被扶養者の収入確認書類の収集に時間がかかったりすることが主な原因です。
遅れた場合の罰則
法律上は、正当な理由なく届出が遅れた場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(健康保険法第208条)という規定がありますが、実際にこの罰則が適用されることは極めて稀です。
ただし、実害としてマイナ保険証または資格確認書の発行が遅れるという問題が発生します。届出が受理されるまでの期間、被扶養者は保険証を持てないため、医療機関では一時的に10割負担となり、後から差額を返金請求する手間が生じます。それ以上に従業員からの会社の信頼を落としてしまうのは大きなダメージになります。代表者自身の家族ならまだしも、社員の家族となるとここは抜かりなく対応しておきたいところです。
気づいたらすぐに手続きを
遅れていることに気づいた場合は、できるだけ速やかに手続きを行うことが最善です。期限を過ぎていても受理はしてもらえます。遅延の理由を問われる場合もありますが、多くのケースで問題なく手続きが完了します。
遅れてしまっている場合の手続き方法
自分で書類を準備して年金事務所に提出するのが基本ですが、以下の方法も検討できます。
スポット依頼できる社会保険労務士
社労士に単発の書類作成・提出代行を依頼する方法です。費用は1件あたり数万円程度が目安ですが、事務所によって異なります。「顧問契約なしでスポット対応可能」な社労士を探す必要があります。
SaaS型の人事労務ソフト
freee人事労務やSmartHRなどのサービスでも一部対応できますが、月額サブスクリプション費用が発生します。設立直後でコストを絞りたい時期には、固定費の追加が難しいこともあります。
被扶養者異動届の書類テンプレート
被扶養者異動届の様式は、日本年金機構のWebサイトから無料でダウンロードできます。
日本年金機構「健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.html
主な記載項目は以下の通りです。
- 事業所整理記号・事業所番号
- 被保険者の氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー)
- 被扶養者の氏名・生年月日・続柄・個人番号
- 被扶養者認定年月日
- 被扶養者の年間収入見込み額
- 配偶者の場合:国民年金第3号被保険者の認定に関する情報