株式分割とは、1株を複数に分割し株式数を増やす手法です。株式の流動性向上や投資家層拡大を目的とし、近年、多くの企業で実施されています。
本記事では、株式分割の仕組みやメリット・デメリット、株価や配当への影響、実施企業の事例などを詳しく解説します。
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株式分割とは
株式分割とは、企業が株式数を増やす手続きのことです。株式分割の仕組みやメリット・デメリット、また近年、株式分割が普及している背景について解説します。
株式分割は現在の株式をいくつかに分けて株式数を増やす手続き
株式分割は、1株を複数に分割することで発行済み株式数を増やす手法です。例えば、1株を2株に分割すると、株主の保有株式数は2倍になりますが、1株の価値は半分になるため、企業価値は変わりません。しかし、1株当たりの配当金を据え置けば、増配と同じ効果が得られます。インカムゲインを狙う投資家にはメリットがあるのです。
背景として、2001年の商法改正での分割後の1単位あたりの純資産の下限撤廃などにより、従来認められていなかった大幅な株式分割が可能となりました。株式分割によって株数が増え、株価が理論上引き下げられることで、株式の流動性が高まり、投資家の裾野が広がることが期待されました。
しかし、実際には、株式分割を行った銘柄で、基準日から効力発生日までの間に株価が乱高下するケースが目立つようになりました。そこで、全国の取引所は2005年3月に5分割を超える大幅な株式分割の自粛を要請し、2006年1月には株式分割の効力発生日を基準日の翌日にまで大幅に短縮することで、株価の乱高下を招く品薄状態を解消しました。株式分割は投資家層の拡大を目指していますが、市場の混乱を招かないよう慎重な実施が求められています。
株式分割と増資の違い
株式分割と増資は、どちらも企業の発行済み株式総数を増やす手段ですが、その目的と影響は異なります。
株式分割では、発行済み株式総数を増やすことで、分割比率に応じて株価が下落し、既存株主の保有株式数が増加します。これにより、株式の流動性が高まり、投資家にとって株式の取得がしやすくなります。ただし、株式分割自体では企業の資本金は増えません。
一方、増資は新株を発行することで、企業が資金を調達し、資本強化を目的としています。増資に参加した投資家や割当先が新株を取得するため、既存株主の保有株式数は自動的には増えません。また、増資に参加しない既存株主は、保有株式の価値が希薄化(企業が新株を発行することで、1株あたりの株式の価値が下がること)するリスクがあります。
つまり、株式分割は株価と保有株式数に直接影響を及ぼしますが、増資は企業の資本構成と既存株主の持株比率に影響を及ぼす可能性があります。企業は、それぞれの目的に応じて株式分割や増資を選択し、実施することになります。
株式分割するメリット・デメリット
株式分割のメリットは、株式購入の敷居が下がり、新たな投資家層を獲得できることです。売買の自由度も上がり、市場での取引活発化が期待できます。
このように株式分割は市場での需給状況を改善し、企業が投資家から支持を集めるための効果的な方法ですが、企業の実質的な価値を変えるものではないことに注意が必要です。
一方、企業側のデメリットは、短期的な売買をする投資家を集めて株価が急落するリスク、株式管理コストの増加、企業イメージへの影響などがあります。
また、投資家側のデメリットは、単元未満株が発生して処分が面倒になる、株価の安定性が損なわれる、などがあります。単元未満株とは、1単元(100株)に満たない1~99株までの株式のことです。
株式分割はメリットだけでなくデメリットもあるため、企業は慎重に実施する必要があります。
株式分割を行う背景
近年、株式分割を行う企業が増えている背景には、証券取引所が企業に対して、株式購入しやすさを重視し、望ましい購入単位を推奨していることがあります。
2022年10月には、投資単位が50万円以上の上場企業に株式分割の要請がありました。また、2001年の商法改正で分割後の1株あたり純資産の下限が撤廃され、株式分割がしやすくなったことも影響しています。ただし、どんな会社でも分割すればよいわけではなく、事業成長の見通しがあり、株式数が増えても今後の株価上昇や配当が見込めるような状況であることが重要です。
近年、アクティビスト(物言う株主)の存在感が増しています。アクティビストとは、投資先企業の価値を高めるために経営改革を積極的に働きかける投資家の総称です。その対策のひとつとして株主を多様化させ、個人投資家を安定株主にするという考え方もあります。株式分割や株主優待などの施策で個人株主を増やすことで議決権の安定を確保し、経営の安定化を図れるからです。
株主総会資料の電子化が進み、株主が増えてもコストがかからなくなったことも個人株主獲得の追い風です。東京証券取引所などが発表した2022年度の全国上場企業の株主分布状況調査によると、上場企業の個人株主の保有比率は17.6%と増加傾向にあります。新NISAも始まり、若年層による資産形成の動きも広がっており、今後も個人投資家の増加が期待できるでしょう。
非上場企業が株式分割をする背景や理由
非上場企業の株式分割では、株価や配当が論点となることは少ないでしょう。どちらかというと純粋な株式数を増やすための施策となることが多いようです、取引先に株式を持ってもらったり、相続などを見据えて株式数を増やすという理由が中心になると考えられます。
株式分割による配当や株価への影響
株式分割は、企業が発行済み株式数を増加させる手段の一つであり、株式の流動性を高め、投資家層の拡大を目的としています。この章では、株式分割による配当や株価の影響について解説します。
配当への影響はどうなる?
株式分割は配当に直接影響しませんが、会社が1株当たりの配当を据え置けば実質増配となり、配当利回り向上で株価上昇の可能性があります。
例えば、株式分割前の株価が1,000円、1株あたりの配当金が20円(配当利回り2%)だったとします。2分割した場合、分割後の株価は500円になりますが、1株あたりの配当金が20円のままであれば、配当利回りは4%に上昇します。
また、分割で株式数が増えることにより、株主優待の内容や量が改善される可能性もあります。ただし、配当は業績や会社の方針で決まるため、株式分割自体が配当に与える影響は限定的です。つまり、株式分割が行われても、企業の業績が悪ければ配当が減る可能性もあります。
株価への影響はどうなる?
株式分割と聞くと、「株価が下がるのでは?」と不安に思う投資家の方もいるかもしれません。しかし、実は株式分割は株価上昇のチャンスとなる可能性を秘めているのです。
株式分割により、1株あたりの価格が下がることで、より多くの投資家が株式を購入しやすくなります。すると需要が高まり、株価が上昇する可能性があるからです。
さらに、株式分割のニュースが市場に好感されれば、それだけで株価が上昇するケースもあります。ただし、株式分割によるリスクも忘れてはいけません。既存株主が分割で増えた株式を一斉に売却すれば、株価下落につながる恐れもあるからです。
非上場企業の株式分割における配当や株価への影響
非上場企業の場合、株式の譲渡制限があるため市場での株価形成はされません。よって、株式分割時の簿価で等分されるだけで、株価への影響を及ぼしません。
また、非上場企業は株主数も限られ、社長がオーナーであることも多いため、税制面からも給与や役員報酬を据え置いて配当を出すメリットが薄く、配当への影響を考慮する必要性は低いでしょう。
株式分割の事例
過去には複数の上場企業が株式分割を実施しています。ここでは、ライブドア、Zホールディングス(旧ヤフー)、トヨタ自動車、三菱商事の事例を紹介します。
ライブドア
ライブドアは2003年12月、1対100の株式分割を実施しました。当時のルールでは、株式分割によって生じた株式の効力が発生するまで50日ほどの期間を設けていました。そのため、権利落ち日からしばらくの間、市場で流通するのは1株のみで、残りの99株は50日間市場に出回らないという状況が発生したのです。
株式分割は企業の価値そのものを変えるものではありませんが、値上がり(キャピタルゲイン)を期待した投資家からの買いが殺到し、一時的な品薄状態となりました。その結果、ライブドアの株価は急騰し、権利落ち日から15日連続でストップ高を記録しました。
Zホールディングス
1997年に上場したヤフー(現Zホールディングス)は、定期的な株式分割で知られるようになり、投資家の間で人気を博しました。1999年から2006年にかけて1:2の株式分割を13回行い、株価は急上昇を続けました。その結果、上場初日の株価が1株200万円だったものが、2006年には8,192株で、1株あたり取得額が244円となりました。
このヤフーの事例は象徴的で、株式分割が株価上昇につながる投資手法として注目され、「株式分割バブル」と呼ばれる現象が発生。特に2006年の制度改正以前は、新株の市場流通までに時間を要したことから、株価が高騰する傾向がありました。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、2021年9月末に1991年以来30年ぶりに株式分割を行い、1株を5株に分割しました。投資単位は100株で、投資に必要な金額は20万円台となり、個人投資家が同社株を購入しやすくなりました。
当時、トヨタは国内企業で時価総額トップながら株主数は15位であり、長期保有して株価を支える個人株主の増加を目指したのです。2015年には、個人株主9万人以上を呼び込んだ「AA型」種類株を発行しましたが、海外投資家からの批判を受け、2021年までに消却。そして、2021年に株式分割を行い、日本株の代表銘柄であるトヨタの株式需給に関心を向ける個人投資家を増やす効果を狙ったのです。
三菱商事
三菱商事は2024年1月1日を効力発生日として、1株を3株に株式分割しました。投資単位を引き下げることで、投資家がより投資しやすい環境を整えることを目的としています。
株式分割前は、単元株式数が100株で、株価が6,000円の場合、最低投資金額は60万円でした。株式分割後は、単元株式数は100株のまま、株価が2,000円(6,000円÷3株)となり、最低投資金額は20万円と、投資しやすい金額となっています。
株式分割の実施においては、目的をしっかり理解しましょう
株式分割は、企業の成長性への期待を示すシグナルとして捉えられることが多いです。特に上場企業において、株式分割をする企業は、将来の株価上昇を見込んでいるからこそ、投資家にとって買いやすい株価にするための施策といえるからです。
他方、株式の譲渡制限がある非上場企業にとっては背景が異なってきます。株式分割の実施に際しては、メリット・デメリットはもちろん、その目的をしっかり理解した上で検討しましょう。
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