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では、次に自己株式について解説します。
自己株式とは?
自己株式とは、株式会社が発行する株式のうち、自社で取得し保有している株式のことです。従来は自己株式の取得は原則として禁止されていましたが、会社法施行により、企業の自己株式の取得や保有が条件付きで認められるようになってきました。これにより、近年株価やROEなどの指標を用いた財務戦略の自由度が上がってきています。
自社株買いと自社株消却の違い
自社株買いとは、上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
自己株式の消却とは、株式会社が自社の株式を株式市場から取得し、消去・消却することをいいます。
上記の意味の通り、株式市場から自社の株式を買い戻すまでなら自社株買いといいますが、その後その株式を消去すると自社株消却といった意味となります。
自己株式の処分とは?
自己株式の処分とは、会社法で定められた手続きに則って、発行済の自己株式を処分(譲渡)することを指します。会社は譲渡に伴って譲渡(売却)代金が得られるので資金調達の効果があります。
会社法上、自己株式の処分は新株の発行と共に手続きが定められています。資金の払い込みを受けて、新株を発行する代わりに自己株式を処分するということになります。
自己株式の消却とは?
自己株式の消却とは会社が所有する自己株式を消滅させることです。自己株式を消却すると会社の発行済株式総数は減少します。自己株式の消却は発行済株式の数を適切にすること等を目的として行われます。会社の発行済株式総数が減少すれば、その旨を登記する必要があります。
発行済株式総数の減少による変更登記は効力発生日から2週間以内に行う必要があります。なお、減少するのはあくまで発行済株式総数であり、定款における発行可能株式総数は減少しません。登記変更の事由として自己株式の消却、登記事項としてその変更年月日および変更後の発行済株式総数を記載することになります。
会社法178条により、株式会社は自己株式を消却することが可能です。その際、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類と種類ごとの数量)を定めなければなりません。さらに自己株式の消却については、取締役会設置会社においては、取締役会の決議を取ることが必要です。
インセンティブプランにおける自己株式の活用
昨今は、譲渡制限付株式報酬の支給や株式給付信託における受託者への株式譲渡という形で自己株式の処分が行われるケースがあります。
以下で詳しく説明します。
譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分
譲渡制限付株式報酬とは株式会社の取締役・執行役員・従業員に報酬として支給される譲渡制限付株式のことです。この株式の支給は自己株式の処分で実施されるケースが見受けられます。
一般的な譲渡制限付株式報酬の支給の目的としては、株主価値や企業価値の持続的な向上を図るインセンティブを取締役・執行役員・従業員に与えること等が挙げられます。
譲渡制限付株式報酬の特徴1:譲渡制限付株式であること
l 譲渡制限付株式:一定期間の譲渡制限が設けられている株式
譲渡制限とは一定期間、契約により割当てを受けた株式について、譲渡・担保権の設定その他の処分をしてはならないことです。
一般的に譲渡制限の手法としては、譲渡制限種類株式を用いるほか、株式自体には譲渡制限が付されていない普通株式を用いた上で、法人とその取締役・執行役員・従業員との契約において制限を設けることが考えられます。
l 譲渡制限種類株式:株式会社がその発行する一部の株式について譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式のこと。つまり株式自体に譲渡制限が付されている株式
ちなみに、自己株式の処分により譲渡制限付株式報酬が付される場合は普通株式を用いるケースが多いと想定されます。
譲渡制限付株式報酬の特徴2:法人により無償取得(没収・失権)される事由(無償取得事由)として勤務条件又は業績条件が達成されないこと等が定められていること
具体的には、譲渡制限付株式報酬は、一定期間継続して株式会社の対象取締役等を務めることを条件とする「勤務継続型譲渡制限付株式」と、当該条件に加えて株式会社の中長期的な業績目標の達成を条件とする「業績連動型株式報酬」により構成されるケースが実務上見受けられます。
譲渡制限付株式報酬支給の手続き
1. 株主総会において取締役に対する報酬総額の決議
2. 取締役会において取締役個人に対する金銭報酬債権の付与の決議
3. 取締役会において株式の第三者割当て(新株の発行又は自己株式の処分)の決議
4. 払込期日に、各取締役による②の金銭報酬債権の現物出資と引換えに、株式を交付
取締役の報酬については、株主総会の普通決議で決定を行うことになります。ただし、各取締役の個別の報酬内容や金額の決定については、指名委員会等設置会社を除いて、取締役会決議等で行うこともできます。
また、金銭報酬債権の現物出資により株式を交付する場合で株式を取締役に交付するケースにおいては、募集株式の発行等の手続(詳細は会社法199条から213条)を行うことが必要です。
監査役会設置会社の場合
自己株式を株式報酬として交付する場合の基本的な流れは以下の通りです。
1. 株主総会で取締役に対する報酬の額又は具体的な算定方法の決議
2. 必要な場合には、取締役会で取締役個人に対する株式報酬相当の金銭報酬債権の付与の決議
3. 取締役会において株式の第三者割当(自己株式の処分又は新株の発行)の決議
4. 払込期日にて、各取締役による②の金銭報酬債権の現物出資と引換えに、各取締役に株式を交付
監査等委員会設置会社の場合
上記1.において、監査等委員である取締役の報酬総額と監査等委員でない取締役の報酬総額とは区別の上で株主総会の決議を取る必要があります。また、上記2.に関して、監査等委員である取締役個人の報酬については、監査等委員である取締役の協議にて定めることとなります。
指名委員会等設置会社の場合
上記1.が不要となります。また、上記2.の決議は報酬委員会によります。
現物出資型の場合、上記1.の株主総会決議に関して、改めて金銭報酬としての株主総会決議による承認を得た上で、その金銭報酬債権の現物出資により株式が交付されることやその株式報酬制度の概要についての説明がなされることが望ましいと考えられます。
株式給付信託(J-ESOP)としての自己株式の処分
株式給付信託(J-ESOP)は、会社が拠出する金銭を原資として信託銀行が株式会社の自己株式を取得し、従業員に対するインセンティブとして給付する仕組みです。信託とは自分の財産を、信頼できる人(受託者)に託し、自分が決めた目的に沿って自分等のために運用・管理してもらう制度のことです。
株式給付信託(J-ESOP)の一般的な手続きの流れは以下の通りです。
1. 株式会社内で株式給付規程を整備する。
2. 株式会社(委託者)と信託銀行(受託者)との間で信託契約を締結する。
3. 株式購入相当額を信託銀行へ信託する。
4. 信託銀行が株式給付信託の信託金で自己株式の処分を受ける。
5. 株式会社から従業員等(受益者)に対し、業績に応じたポイントを付与する。
6. 従業員代表等の信託管理人が議決権行使を指図する。
7. 退職等で、従業員が信託財産の受給権を取得して、業績ポイントにより株式の給付を受ける。
またこれに近い別の形として株式給付信託(従業員持株会処分型)も見られます。従業員持株会を活用したインセンティブ制度であり、信託期間における株価の上昇を、従業員持株会加入者に還元する仕組みです。株価の影響がインセンティブに影響するといえます。
株式給付信託(従業員持株会処分型)の手続きの流れは以下の通りです。
1. 株式会社(委託者)は、信託銀行(受託者)に金銭を信託する。
2. 信託銀行は、金融機関から株式取得代金の借入を行う。
3. 株式会社は、金融機関に対して債務保証を行う。
4. 当該信託は、借入れた資金で自己株式の処分を受ける。本信託が株式を取得する上で、株式会社は、信託期間内に持株会が取得すると見込まれる相当数の自己株式の処分を一括して行う。
5. 持株会加入者(受益者)は、奨励金と併せて持株会に金銭を拠出する。
6. 持株会は、毎月従業員から拠出された買付代金を使用し、当該信託から時価で自己株式を購入する。
7. 信託銀行は、当該信託の持株会への株式売却代金をもって借入金の元本を返済し、当該信託が株式会社から受領する配当金等をもって借入金の利息を返済する。
8. 当該信託は、信託管理人の指図に基づき議決権を行使する。当該信託は、信託期間の終了や信託財産の払底等を理由に終了する。信託の終了時には信託の残余株式の処分を行い、借入金を完済し、それでも剰余金が存在する場合、持株会加入者に分配する。信託終了時に、仮に受託者が信託財産で借入金を返済できなくなった場合は、株式会社が債務保証履行することにより、借入金を返済します。
まとめ
ここまで自己株式の処分について説明しました。自己株式の処分は資金調達の一環として行われるケースが多いですが、それだけではなく、譲渡制限付株式報酬の支給、又は、株式給付信託の受託者に対する譲渡として行われる場合も昨今見られます。
譲渡制限付株式報酬と株式給付信託については詳しく説明したのでしっかりとイメージできた方もいらっしゃることでしょう。
今回の記事が皆様の自己株式への理解が深まるきっかけとなれば幸いです。
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