企業経営における戦略的スキームとして、合併、買収、株式交換等の組織再編が幅広く行われています。そのうちの買収の一手法として「株式取得」があります。対象企業の株式を取得することにより子会社化し、当該企業の支配権を獲得する手法です。
2社以上の会社が支配関係にあると、他の会社を支配している会社は親会社となり、一方で支配されている会社は子会社となります。
特に、親会社が子会社の発行済株式の全てを保有する場合には、その子会社は完全子会社となり、当該子会社唯一の株主である親会社により、完全に支配されることとなります。
本記事では、子会社の株式取得のメリットや例、手続きの流れについて紹介します。
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買収手法としての株式取得
企業を買収する方法には、「株式取得」と「事業譲渡」などがあります。
「株式取得」は、既に発行されている子会社の株式を既存の株式から買い取ることにより、支配権を獲得する方法です。
「事業譲渡」は、親会社が子会社を新規に設立して、その子会社に事業を譲渡する方法です。
近年では、NTT㈱が2020年12月に㈱NTTドコモを完全子会社化しました。株式公開買い付けや株式売渡請求という「株式取得」の方法により、66%であった出資比率を100%に引き上げました。
その他にも、合併して統合したり、株式交換で完全子会社化したりする方法もあります。
子会社の株式取得によるメリット
特定の親会社以外に他の株主が存在する場合には、その子会社は所有と経営が分離した状態となり、経営を行う上で、親会社以外の株主の意向を無視できない状況にあります。
その点、親会社による子会社株式の持分比率を3分の2以上にして、支配従属関係を強化すると、所有と経営の分離がほぼ解消されます。
特に、完全子会社においては所有と経営が一致した状態となり、企業経営における意思決定の迅速化が実現されます。
適切な株主構成を維持するという資本政策の観点からも、親会社による株式の持分比率を高めて支配従属関係を強化することで、当該子会社における経営の安定化を図ることができます。
企業グループの経営成績という観点からも、子会社の株式取得によるメリットがあります。子会社は企業グループの連結子会社として連結財務諸表の一部を構成します。
業績の良好な子会社を連結財務諸表に取り込むことができれば、連結損益計算書における利益は増大し、企業グループ全体の企業価値向上が実現することになります。
子会社の株式取得における注意点・デメリット
親会社が子会社の株式を取得することがデメリットになるケースもあります。親会社による持株比率が高い場合には、外部株主の資本参加が制限され、企業グループ外部から調達できる資金が限定されます。
また、子会社がスタートアップの企業など、現在は成長の途上にあるために業績が赤字基調である場合には、その子会社の損失が連結財務諸表に取り込まれるため、企業グループ全体の経営成績を押し下げる影響があります。
株式取得に必要な手続き
具体的な株式取得のプロセスについて、順を追って説明します。
目的の明確化
まずは経営戦略の一環として、企業の株式取得を行う目的を明確にすることが必要です。株式取得によって対象会社を子会社化し、企業グループを形成することで、既存事業とのシナジー効果が期待できる場合や、経営効率を改善できる場合など、メリットが見込める場合に限定されます。
また、資金面も考慮しなければならず、株式の取得資金を内部留保でまかなえない場合には、銀行からの借り入れ、社債の発行や増資などを検討する必要があります。
対象会社の選定
対象会社について、事業内容、業績、成長性、株主構成などを考慮して、株式取得の目的に合致する会社をリストアップし、比較検討します。上場会社であれば会社の概要が開示されていますが、非上場会社の場合は情報の入手が困難です。
そのため、M&Aの仲介会社や金融機関などの協力を得て、対象会社を紹介してもらうことが効果的なケースもあります。
株式取得に関する基本合意
対象会社とはまず守秘義務契約を締結します。売り手側の企業は企業秘密である事業計画や財務情報などを買い手側に開示することになるので、当該契約が必要となります。
その後、買い手は売り手の様々な情報を入手して、株式取得の価値があるか検討します。買収の方針が固まったら、買収価格など諸条件の交渉に入ります。
これらの諸条件が合意になった段階で、基本合意書を取り交わします。ここで注意が必要なのは、基本合意書には法律的な拘束力があるわけではなく、契約の成立を保証するものではありません。その後の交渉次第で取引が不成立に終わることもあります。
デューデリジェンス
株式取得を成功させるには、デューデリジェンスは欠かすことのできない非常に重要なプロセスです。魅力的に見える企業であっても、実際には不良債権や簿外債務が隠れているなどの問題が買収後に明らかになるリスクがあります。
これらを完全に防ぐことはできませんが、コストと時間の許す限りデューデリジェンスをすることによって、リスクを低減させることができます。
財務、税務、法務、ビジネスといった分野ごとに、関連資料の精査、担当者へのヒアリング、現場視察を行うことで、対象会社のビジネスの実態や財務の状況に関する情報を収集し、対象会社の実態や財務状況について徹底的に調査します。
条件の交渉
デューデリジェンスの結果に基づき、株式取得の実行が決まると、対象会社への具体的な条件提示を行うことになります。買収金額、旧経営陣や従業員の待遇などについての条件交渉を行います。
買収金額に関しては、まず売り手が評価額を算定し、買い手はその売り手が提示した情報に基づいて評価額を算定します。
売り手はなるべく高く、買い手はなるべく安く取引することを望みますが、双方が合意できる金額へと落としどころを見つけ交渉します。優秀な人材の維持など、旧経営陣や従業員の人的な面も十分に考慮することが重要です。
契約の締結
対象会社との間で条件交渉がまとまると、最終的に、株式譲渡契約書を締結することになります。株式譲渡契約書には、対象会社の事業、株式数、価格、取引実行のための前提条件などが盛り込まれます。
その後、最終の株式譲渡契約書に基づき、資産の引き渡しや代金の精算が行われ、一連の株式取得が完了します。
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