事業承継は、会社の経営を新しいオーナーに移譲するプロセスです。誰が次の経営者になるかを決めることは、特に重要な経営上の課題です。
ただし、事業承継は、新しい社長を選ぶだけでなく、経営権を誰に譲るか(所有権の承継)、後継者をどう育てるか(教育)、といった問題も含まれています。
この記事では、公的な支援や事業承継を成功させるための方法・手順、承継にともなって発生する登記申請などについて詳しく説明します。
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事業承継とは?
最初に、事業承継とはどういったものなのかについて説明します。基本的な概念を確認しましょう。
会社の経営を後継者に引き継ぐこと
事業承継は会社の経営を後継者に引き継ぐことあり、多くの場合、中小企業や家族経営のような小規模企業を前提とします。
上場企業や関連企業の場合、通常、社内外から有望な人材を見つけ出して社長を交代して経営を続けることができます。しかし、ほとんどの中小企業では経営と所有が一体化している状況が多いため、後継者を見つけるだけでなく、自社の株式の譲渡や社長の個人的な保証など、解決しなければならない問題が多く存在します。
さらに、先代経営者の持つビジョンやノウハウの継承(後継者の育成)や、従業員や取引先からの理解を得る必要もあります。これら多くの課題や実施すべき活動があるため、単に「社長交代」ではなく「事業承継」と呼ばれているのです。
なお事業承継という言葉に似た言葉として「事業継承」というものがありますが、基本的に両者は同じで、どちらも「会社やその事業を引き継ぐ」行為を指します。
少子高齢化を背景に社会課題化しつつある
事業承継において『後継者がいない』という問題は大きなものです。特に中小企業を中心に、現在、多くの会社で後継者不足の問題が起きています。60代以上の経営者の中には、後継者がいないまま経営を続けている人が多く、これが社会全体の大きな課題となっています。
この状況を受けて、国も以下のような支援機関・制度を設けています。
以前は主に家族間での引き継ぎ(親族内承継)が一般的でしたが、最近では徐々にM&Aによる事業承継も増え、M&Aや事業譲渡のマッチングをサポートする企業、事業承継を支援するファンドなどが増加しており、問題の解決方法が多様化しています。
事業承継先の種類や背景
事業承継には、大きく分けて親族への承継(親族内承継)、親族外への承継(従業員承継)、M&Aなど外部の第三者による引き継ぎがあります。それぞれについてこの章で説明します。
親族への承継
経営者の家族による承継は、通常は現在の経営者の親族(跡継ぎ)にビジネスを引き継ぐ方法です。将来的な引き継ぎを計画している場合、通常は家族や親戚などが前もって会社に入社し、経験を積んだり、内外の関係を築いたりすることが一般的ですが、突然の出来事(例:代表者の死亡)の場合、急に配偶者や親族が事業を引き継ぐことがあります。
この方法は他の方法と比較して、関係者も感情的に受け入れやすいこと、後継者を早く確定させてセミナーに参加させたり経営の重要な局面に同席するなど長期的な実施計画を立てることができること、財産や株式の所有権と経営を一括して継承できる可能性があることなど、いくつかの利点があります。
しかし、一方で、一部の経営者は「親子だからといって子供に自分の道を選ばせたい」と考えることや、「子供への経営者としての教育を引退までに完了させるのは難しい」と考えることもあります。
親族内承継には株式の譲渡や相続・贈与といった手続きが多く関わってきます。相続人が少なければ問題はありませんが、時には遺留分についての除外合意・固定合意などが必要になることがあり、株式の分散に対処する対策が必要になることもあります。
事業承継における相続の注意点
- 民法は、相続人同士の公平さや生計の安定を保護するために、兄弟姉妹やその子供以外の相続人に最低限の相続権を与えています。これが「遺留分」と呼ばれます。
- 後継者が先代経営者から株式や事業資産を贈与された場合、民法では原則として、その価値は相続が始まる10年以内に贈与されたものに限定され、これは特別受益と呼ばれ、遺留分の計算に影響を与えます。しかし、もし贈与された株式や資産についての「除外合意」があれば、その価値は遺留分の計算に含まれず、影響を受けなくなります。
- 後継者が先代経営者から贈与された株式などの価値を、遺留分の計算に使う場合、相続が始まる時点での評価額を使います。贈与時の株式の価値が相続開始時に増加していた場合、その増加分は、後継者の努力によるものであろうとも、相続計算に含まれます。しかし、もし贈与された株式に「固定合意」がなされていた場合、遺留分の計算に使用する評価額は贈与時点の価値になり、その後の増加分は考慮されません。
親族外への承継
親族外への承継は、会社の信頼性のある役員や従業員による引き継ぎが行われるもので、別名「従業員承継」とも呼ばれます。このプロセスでは、まず経営者としてのスキルやビジョンを後継者に伝え、経営の引き継ぎを進めます。通常、経営権(社長のポジション)と株式の引き継ぎが行われ、株式は売却または贈与といった方法で移動します。
この方法のメリットは、後継者を直接見て評価し、仕事の引き継ぎが比較的スムーズに行えることです。他の従業員からも受け入れやすく、現場の不安定さが少なくなります。また、株式を売却すれば、経営者は売却益を得ることができます。
デメリットとして、家族ではないため、相続権を持っておらず、株式の譲渡資金の確保や税金に関する問題、社長の負債に対する個人保証に関する問題が障害となることがあります。
第三者への承継
M&Aによる事業承継は、外部の候補者(別の企業)を見つけて、事業を引き継ぐことを指します。
M&Aでは一度に引き継ぎを行うこともあれば、経営資源の一部、例えば技術やノウハウについて、M&Aの前後に期間をかけて引き継ぐこともあります。
長期にわたる取引関係がある主要な顧客に事業を譲渡するケースも考えられます。また、事業を承継するファンドに事業を売却したりすることもあります。承継先が確定していない場合、相手を見つけるためのマッチングを支援し、コンサルティングやアドバイスを提供する専門業者も増加しています。
M&Aの利点は、自社の株式や事業を売却することで、経営者は売却益を得やすくなる点です。さらに、親族や社内での承継と比較すると、事業を引き継ぐ候補者を広く探すことができるメリットもあります。M&Aする側も承継についてノウハウがあり、スムーズに引き継げる可能性があります。
ただし、外部から見ても魅力的な事業である必要があり、どんな会社でも簡単に実行できる方法ではありません。
事業承継の手順
事業承継をスムーズに進めるには早期の着手が必要です。経営者が元気で影響力があるうちに取り組むべきです。ステップとポイントを把握しましょう。
経営状況(業績や資産)の把握
まずは自社の経営状況と事業承継に関連する課題を明らかにすることが必要です。自社の状況を把握するために、自社株式の評価、利益を上げている商品やサービス、競争上の優位性、業界での立ち位置などを分析します。
業績はもちろん重要ですが、資産状況の理解も肝要です。中小・零細企業では、個人と会社の区別が明確でないこともあります。そのため、負債に個人の保証が付いているか、経営者からの貸付金があるか、株主の状況を整理することが重要です。
承継先と実施計画の決定
経営権と所有権の承継先を決定します。両方を同じ人に引き継げれば理想的ですが、難しい場合もあります。承継に必要な手続きの計画を立て、コンサルティング事業者などからのサポートも検討しましょう。
承継の実施
親族や従業員による承継の場合は、経営権や資産の承継を行い、第三者による承継の場合はM&Aを実行します。
具体的には、資産の移転や経営権の譲渡を行います。親族や社員への承継には、経営者教育が必要で、数年から10年ほどの時間がかかることがあります。一方、M&Aは外部から経営者を迎え入れるため、比較的短期間で実施できます。ただし、適切な相手を見つけるまで時間がかかる場合もあります。
承継にはさまざまな手続きが必要です。株主総会の開催や登記簿謄本の内容変更に伴う登記申請などが必要な場合もあります。株式の譲渡や相続など、会社の状況に応じて異なる手続きが必要です。必要に応じて、さまざまな士業や専門家の支援が必要になることもあります。ステークホルダーが多い場合は、プロセスが複雑で時間がかかることもあるので、注意が必要です。
承継実施後のモニタリング
事業承継自体のプロセスは上記で完了ですが、事業承継を終えた後、即座に経営状況が悪化したり、会社を廃業したりしてしまっては、全ての努力が水の泡になります。
したがって、事業承継が成功したら、円滑な会社経営を確保し、事業を更に成長させるための取り組みを行う必要があります。特にM&Aの場合は、譲渡先企業との経営統合手続き(PMI)も必要です。このプロセスは数年にわたることもあるため、注意が必要です。
事業承継に伴って発生する登記申請の種類
会社の情報を法務局の商業登記簿に記載する商業登記は、事業承継時においても必要です。事業承継時のおもな登記申請について説明します。
役員変更関連
まず、代表者の交代や役員の就任・辞任などの手続きが必要です。特に、親族が役員になっている場合は、役員の整理が重要です。役員が亡くなった場合も登記変更が必要です。また、経営体制の変更にともなう役員変更についても法人登記が必要です。
会社の種類によっては、役員の任期が設定されていることもありますので、定款をよく確認しておくことが大切です。任期が満了して役員が退任する場合など、手続きに時間がかかることもあるため、事前に計画を立てておくと良いでしょう。
本店移転
家族経営の場合、会社の本店住所が自宅住所となっていることもあります。そのため、事業承継後に本店住所を承継先に合わせて変更する必要があることもあります。
社名や事業目的の変更
事業承継時に行うことは少ないですが、承継にあわせて商号(社名)や事業目的を変更する場合、定款および登記変更が必要になります。歴史の長い企業の場合、現在は行っていない事業目的が残っている可能性もあるので、このタイミングで整理を検討してもよいでしょう。
定款や株主の変更に伴う登記申請
株主や株式に関連する変更、例えば定款の変更や新たな株券の発行などが必要な場合、登記申請が必要になることがあります。登記変更が必要な手続きを行った場合は登記を実施しましょう。
上記の各登記変更については必要書類のテンプレートが法務局Webサイトからダウンロードできますので、以下のリンクからご参考ください。
事業承継の準備は早いほど良い
事業承継は、経営者にとって避けて通れない最後の大仕事です。元気なうちに、「まだ先の話だから」「考えても答えが出ないから」と、つい後回しにしがちです。特に現役で働けている時期の経営者は忙しくてエネルギッシュなので、特にその傾向があります。
しかし、いざという時に後悔しないためにも、早めに事業承継を考え、必要な準備をしておくことが重要です。以前に比べると、国の制度や外部の支援も増えていますのでこれらを活用しながら検討を進めましょう。
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