個人事業主と法人のどちらが得かは、利益の大きさだけでは決まらず、どちらか一方が常に有利ということもありません。税金の種類と税率、社会保険の加入義務、赤字を繰り越せる期間、消費税の免除など、10項目の違いが重なって答えが変わります。
判断が難しいのは、税金が軽くなる面と負担が増える面が同時に出るためです。
たとえば所得税は5%から45%の累進、法人税は資本金1億円以下の法人で年800万円以下の部分が15%と、仕組みそのものが違います。
この記事では10項目を一覧表で並べたうえで、税金・報酬と社会保険・赤字の扱い・手続きを、国税庁と日本年金機構の令和8年4月時点の公開情報で整理し、法人を選ぶ場合の次の手続きも案内します。
個人事業主と法人はどっちが得?違いを10項目で比較
個人事業主と法人の違い10項目の比較表
項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
1 設立の手続き | 開業の届出のみ。登記は不要 | 設立登記が必要。登録免許税などの実費がかかる |
2 所得にかかる税金 | 所得税(5〜45%の累進)と復興特別所得税 | 法人税(中小法人は年800万円以下の部分が15%) |
3 自分への報酬 | 事業主本人の給与は必要経費にならない | 役員報酬は要件を満たせば損金になる |
4 赤字の繰越 | 青色申告で翌年以後3年 | 青色申告で10年 |
5 社会保険 | 原則は国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金が強制適用(役員のみでも) |
6 消費税 | 前々年の課税売上高が1,000万円以下なら免税 | 設立時の資本金が1,000万円以上なら最初から課税 |
7 地方税 | 個人事業税(事業主控除290万円) | 法人事業税・法人住民税。赤字でも均等割がかかる |
8 責任の範囲 | 事業の債務を個人の財産で負う | 株式会社・合同会社の出資者は出資額までが原則 |
9 取引・信用面 | 契約や口座は個人名義 | 法人名義。法人を条件にする取引先もある |
10 決算・申告の事務 | 確定申告が中心 | 決算書の作成、法人税の申告、登記や社会保険の手続きも発生 |
税金の違い:所得税・法人税・消費税
個人事業主の事業所得には所得税がかかり、税率は課税所得195万円未満の5%から4,000万円以上の45%まで、7段階で上がります。令和8年分では、所得税額の2.1%の復興特別所得税も加わります(国税庁「No.2260 所得税の税率」)。
法人税は、資本金1億円以下の法人など(一定の要件あり)で、年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%の2段階です(国税庁「No.5759 法人税の税率」)。ただし、法人事業税・法人住民税や個人事業税(法定業種のみ。事業主控除は年290万円。東京都主税局)も別にかかり、税率だけで総額は決まりません。
消費税は、個人事業主は前々年、法人は前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として免税事業者です。ただし新設法人は、設立事業年度の期首の資本金が1,000万円以上だと最初から課税事業者です(国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」)。資本金が1,000万円未満でも、適格請求書発行事業者の登録をすると免税になりません(国税庁「No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき」)。
自分への報酬と社会保険の違い
法人では、社長自身への報酬も役員給与です。損金に算入できるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たるもので、不相当に高額な部分は損金になりません(国税庁「No.5211 役員に対する給与」)。個人事業主は、事業主本人への給与を必要経費にできません【要確認:出典の一次情報】。
社会保険は、加入の条件から違います。法人の事業所は、事業主1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用で、従業員数の条件はありません(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。厚生年金保険料率は18.3%で、労使が半分ずつ負担します(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。個人事業所は、常時5人以上の従業員がいて、農林水産業やサービス業などを除く業種の場合に強制適用です。それ以外は国民健康保険と国民年金が一般的で、令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円です(日本年金機構「国民年金保険料」)。
赤字と控除の違い
青色申告をしている個人事業主の純損失は、翌年以後3年間、所得から差し引けます(国税庁「No.2070 青色申告制度」)。法人は、青色申告書を提出した事業年度の欠損金を10年繰り越せますが、中小法人等以外には控除前所得の50%という上限があります(国税庁「No.5762 欠損金の繰越控除」)。
個人事業主には青色申告特別控除もあります。複式簿記などの要件を満たせば55万円、これに電子帳簿保存かe-Taxでの送信を加えると65万円、それ以外の青色申告者は10万円です(国税庁「No.2072 青色申告特別控除」)。一方、法人は赤字でも法人住民税の均等割がかかります【要確認:金額と根拠の一次情報】。金額は「法人化の費用と会社設立後の維持費は?赤字でもかかる年7万円」で整理しています。
手続きと事務負担の違い
青色申告の承認申請は、個人事業主が原則その年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業から2か月以内)、法人が設立の日以後3か月を経過した日と第1期末日のいずれか早い日の前日までです。法人設立届出書は、設立の日以後2か月以内に出します(国税庁「No.2090」「No.5100」)。
法人の設立の流れは「株式会社設立の流れ9ステップ 登記申請の方法と費用」にまとめています。
判断材料のチェックリストと次に読む記事
- □ 事業の利益の見込みと税率区分
- □ 従業員の人数と業種(社会保険の強制適用)
- □ 取引先が課税事業者か免税事業者か
- □ 赤字の見込みと、繰越期間・均等割
- □ 法人格を求められるか、事務を誰が担うか
利益の水準ごとの損益は「会社設立のメリット・デメリット|法人化の損益分岐点」、時期の判断は「法人化のタイミングはいつ?判断基準7つと逆算の手順」、廃業届など移行の手続きは「法人化・法人成り手続き 個人事業の廃業届と引継ぎ方法」で扱っています。株式会社と合同会社の違いは「株式会社と合同会社の違い7項目を解説 どっちを選ぶべきか」で比較しています。